ヤマボウシはミズキ科・ミズキ属・ヤマボウシ亜族に分類される落葉樹であり、里山の風情を感じられる庭木です。
この風情を楽しむ為にヤマボウシはナチュラルガーデンへ植栽される他、自然なシンボルツリーとしても重宝されています。
流通するヤマボウシはほとんどが均整の取れた株立ち樹形である事から、単独で植えられる事が多い庭木です。
近縁種であるハナミズキと花や葉が似ており、枝の形や伸び方にも共通した点が見られます。
風に揺れる様な柔らかい樹形を維持する為にも、ヤマボウシは枝透かし剪定によって樹高3m~で管理したい庭木です。
目次
ヤマボウシの基本データ
- 科名と属名 ミズキ科・ミズキ属・ヤマボウシ亜属
- 学名 Cornus kousa
- 英名 Kousa dogwood
- 別名 ヤマグワ ヤマボウ コウサ
- 分類 落葉広葉樹 小高木
- 開花期 5月~7月
- 花色の種類 白・ピンク
- 実の成熟期 10月~11月
- 原産地 東北以南の日本 中国 朝鮮半島
- 主な植栽用途 シンボルツリー 雑木の庭やナチュラルガーデンへの植栽
下でもご紹介をしておりますが、花の形を頭巾を被った僧に見立てた事が、山法師(ヤマボウシ)の由来となっています。
作庭者から見ると「ヤマボウシはこんな庭木」
庭づくりの中でヤマボウシを植栽する事はよくありますが、作庭者としてヤマボウシのポイントをまとめると以下の様になります。
おすすめなポイント
- 美しい葉と白花を楽しめる
- 食用出来る実や紅葉も楽しめる
- 自然かつ均整の取れた樹形が美しい
注意したいポイント
- 自然な樹形を維持するには放任も必要
- 誤った剪定を行うとすぐに樹形が硬い印象に変わる
- 毛虫(イラガ)やうどん粉病等の病気に注意が必要
それではこれらのポイントを交えながら、ヤマボウシの解説を進めてまいります。
ヤマボウシの特徴
ヤマボウシは野趣を感じられる雑木として庭木に使われる落葉樹であり、梅雨時期の白花や秋の紅葉まで楽しめます。
また、秋に熟す赤い実は食べる事もでき、ヤマボウシは季節ごとに多くの魅力を持った庭木です。
それではまず、ヤマボウシの葉や幹に見られる特徴を解説します。
葉脈が美しい葉
ヤマボウシの葉は長さ8~10cm程で、葉先は鋭利、葉脈が美しく見えるのが特徴的です。
環境にもよりますが葉は若干の光沢を感じられ、半日陰のヤマボウシは特に葉が美しく見えます。
品種:ミルキーウェイの葉
ヤマボウシにはややクリーム色の花を咲かせる品種、ミルキーウェイがありますが、伸び方や葉の雰囲気も異なります。
ミルキーウェイの葉は特別肉厚という程ではありませんが、通常のヤマボウシの葉よりも丈夫な印象です。
やや光沢感があり、葉脈がよりハッキリとして見えるのが特徴です。
枝は縦方向へ伸びやすく成長も旺盛であり、「カット」の様な切り戻し剪定に対しての吹き返しが強い傾向があります。
これは樹形を崩しやすいとも言える特徴ですので、注意が必要です。
斑入り品種:ウルフアイの葉
ヤマボウシには、葉の外側が白くなる斑入り葉の品種もあります。
これはウルフアイという品種で、落葉樹でありながら洋風味を感じられる庭木として特に人気です。
ウルフアイは葉数が多い為に枝振りがほとんど見えない事が多く、とにかく葉の明るいカラーを楽しむといった方向性の庭木と言えます。
ヤマボウシの幹
株立ち樹形が圧倒的に多いヤマボウシですが、その細い数本の幹は生育して写真の様にに太くなっていく事を想定しておきましょう。
ヤマボウシの幹は滑らかと言いますよりはざらざらとした手触りであり、地衣類によって斑模様が付く事があります。
アオハダやアオダモは縞模様となる事が多いのですが、ヤマボウシの場合は斑点状が多く見られます。
幹の色は灰色であり、この色は日向・日陰の環境にはあまり影響を受けない様です。
ヤマボウシの花
ヤマボウシは花木としても親しまれており、ハナミズキと共に昔からお庭へ植栽されてきました。
5~7月に開花するヤマボウシの花は開花期間も長く楽しめます。
ヤマボウシの花はハナミズキと同様に、花の元からの「総苞」が花びらの様に見える構成となっており、花そのものは中央に小さい球状にまとまって咲いています。
尚、この中央の小さな花の集合体を僧の頭、白い総苞を頭巾に見立てた事が、山法師という名前の由来となっています。
ハナミズキの花との違い
花びらの様に見える苞の先端が尖っているヤマボウシに対して、ハナミズキの花の苞は明らかに丸み掛かっており、先端は窪んだ形になっています。
開花時期にも違いが
ハナミズキの花が春の新葉展開前に開花をし、花の色付きと共に後から葉が出てくるのに対し、ヤマボウシは初夏に既に葉が茂った中に花を付けます。
既に青々と葉が茂った中に白い花を咲かせる為、ヤマボウシの方が野趣ある姿に見え、里山の様な風情が感じられます。
ですので、ナチュラルガーデンの中の雑木植栽といったシチュエーションでは、ヤマボウシの方がマッチするとも言えます。
この様に自然な白花を楽しめる雑木としてはエゴノキも似た魅力を持っています。
白花の他に紅花種のヤマボウシも存在しますが、ナチュラルガーデンや自然風の庭などでは可憐な白花の方を植栽する事が多いです。
園芸品種:ミルキーウェイの花
ミルキーウェイは開花時の緑色から段々とクリーム色へ変化していくのが特徴で、花数を多く付ける園芸品種として取り扱われます。
園芸品種でありますが庭木サイズの流通も非常に多く、手に入れやすい庭木でもあります。
しかし成長力が強い事は踏まえておく必要があり、広い場所でたくさんの花を咲かせたい場合にはおすすめが出来ます。
ヤマボウシの紅花品種
ヤマボウシには白花だけではなく、薄紅色の花を咲かせる園芸品種があります。
元々ヤマボウシには花の総苞片が薄いピンク色になる「ベニヤマボウシ」があり、この木から選抜・開発された二種「サトミ」と「紅富士」が紅花品種として流通しています。
サトミは紅色の総苞片が丸み掛かっているのが特徴で、非常に可愛らしい印象であり、紅富士は総苞片が通常種と同じく剣型で尖っており、野趣を残したまま紅色に染まって印象を持ちます。
どちらの紅花品種も良い発色の為には良く日光に当たる事が良いとされています。
常緑のヤマボウシとは?
ヤマボウシの常緑種として扱われる木として「ヒマラヤヤマボウシ」や「ホンコンエンシス」があり、庭木として主に流通するのはホンコンエンシスの方です。
ホンコンエンシスは関東でも冬季に半分程の葉を落とす事がありますので「半常緑性」という解釈が正しいのですが、写真の様にヤマボウシよりもしっかりとした葉を持ち、洋風の庭木としておすすめが出来ます。
当然ながら花もヤマボウシと良く似ておりますが、枝の形状や成長に着目しますとハナミズキと共通する点が多く見られます。
関連記事>>>常緑ヤマボウシ(ホンコンエンシス)とは?-葉や花の魅力、洋風シンボルツリーとしての植栽実例も
食用も可能なヤマボウシの実
ヤマボウシは自然な樹形や花が魅力ですが、食用も可能な実も見どころです。
ヤマボウシの実について、成熟していく様子と共に解説します。
膨らんできた青い実
花が終わって存在が確認出来る様になった、7~8月頃のヤマボウシの実です。
ヤマボウシの実はすぐに大きさ2cm前後まで大きくなり、ここから2か月程を掛けて徐々に熟し、色付いていきます。
ヤマボウシの実は色付いていく様にも美しい変化が見られ、花にも負けない季節感を鑑賞する事が出来ます。
夏の間に色付き始める実
青かったヤマボウシの実は早い内に黄色く色付き、実の存在が認識しやすくなってきます。
ヤマボウシの実は熟していく過程で、個体差を生じながら緑→黄色→オレンジ→赤という具合に色付いていきます。
しかし私見では日当たりの良い場所ですと黄色い期間が無い、もしくは短い様で、青から徐々にオレンジへ変化する事が多く思います。
実が赤く成熟した様子
完全な球体である実は10~11月頃には完熟し、真っ赤な色付きを見せます。
まだ青々とした葉の中に付く赤い実が映え、まさに山で見る自然の美しさとも言えるでしょうか。
大粒の実はサクランボの様にぶら下がる為、美しさと共に可愛らしさも感じられます。
ヤマボウシの実の味は?
実際にヤマボウシの実を食しますとその甘さに驚くかと思います。
写真の様にヤマボウシの実の皮は薄く、指で容易に剥く事が出来ますので簡単に食べられます。
熟した実の味は干し柿にも似ていて糖度の高い甘さが感じられ、繊維質な食感も楽しめます。
しかし幾つか入った種は食べられない上に、果実としては可食部分が少ない事は否めません。
実の利用方法は生食の他、ジャムやドライフルーツに加工する楽しみ方もあります。
尚、同じく実が食用可能でナチュラルな雑木としてはジューンベリー(アメリカザイフリボク)もおすすめ出来ます。
ヤマボウシの紅葉
ヤマボウシの紅葉はとりわけ特徴として挙げられる機会が少ないものの、均整の取れた樹形が色付いた様は大変に美しいものです。
横枝が自然に伸びた様な樹形を保っていますと特に紅葉が美しく映え、山の風景を見ている様な感覚になります。
住宅地においては紅葉具合が環境によって異なってしまいますが、夏に乾燥をさせない様にする等、美しい紅葉の為に出来る事はあります。
水遣りによる乾燥防止他、夏の強い日光にあたりにくい場所を選んで植栽するか、基本ですが夏場は剪定を避けて葉を充実させておき、自らの木陰で葉焼けを防ぐ様にする事もおすすめです。
ヤマボウシに適した環境と成長傾向
ヤマボウシは山の雑木の風情をそのままお庭へ持ち込みたい植木ですので、枝詰めが頻繁に必要となる場所への植え付けは避けたいものです。
常に歩行されるアプローチ沿いやお車に近い場所、道路境界付近への植栽をしますと常に幅を詰める「カット」が必要となってしまいますのでお勧め出来ません。
ヤマボウシは単純な「カット処置」による樹形の崩れ・反発的な伸びを起こす傾向がとても強い為、不要な枝は可能な限り元から外す事を心掛けます。
そのナチュラルな樹形をお住まいに添えるシンボルツリーとしての植栽はもちろん、ヒメシャラやジューンベリーと共存させて自然風の庭を演出する事にも適しています。
成長と共に大きくなる葉
ヤマボウシは伸びが大人しいと紹介される事も多いのですが、作庭・剪定に関わっておりますと生育は旺盛だと感じます。
まず、植栽するにお庭へ搬入した際の姿と異なってくるのが葉の大きさです。
植木は流通している際は根を切られ続けてコンパクトに作られている為、ヤマボウシに限らず特に落葉樹は葉が小さくなった状態で取引される事も多いです。
上の写真は植栽直後のヤマボウシを施工例として撮影したものですが、根が張るに連れて葉は大きくなります。
特に日陰気味の場所へ植栽されたヤマボウシはその傾向が顕著に表れ、植栽時の倍近い大きさの葉になる事もあります。
この特性から、庭木としてヤマボウシを維持するにあたり、枝の数を減らすという剪定が必須となってまいります。
徒長枝はもちろんの事、植栽の際にも内側へ向いた枝を取り外しておく事もあります。
雑木類はボリュームがあった方が木が立派に見える為にそのまま植栽される事が多いのですが、庭という環境での生育に備えて手を加えておく事も大切です。
ある程度の日陰でも育つ
ヤマボウシは明るめの日陰であれば、雰囲気を損なう事なく生育をしてくれます。
雰囲気は変わりませんが、葉の数が少なくなり、下部の枝も少なくなります。また、日光を多く取り入れられる様に葉の大きさが大きくなります。
背丈や幅を無理にカットしなければ、シェードガーデンの雑木らしく柔らかな美しさを見せてくれるでしょう。
同じシチュエーションですと、アオダモもおすすめな庭木となります。
夏の直射日光による葉焼けに注意
ヤマボウシは夏場の直射日光により葉がひどく焼けてしまう事があります。
やむを得ず陽当たりの強い場所へヤマボウシを植栽をする場合は、自らに木陰を作る様に放任成長させる事も有効です。
特に横方向の枝を自由に伸ばすと地表に木陰が生まれやすく、葉焼けと乾燥の防止に効果があります。
ヤマボウシは葉が大きいので「葉焼け」を起こしてしまうと非常に目立ちますが、葉焼けを起こしても枝枯れを起こすには至らない事が多く、落葉~新葉展開のサイクルによって綺麗な葉へ入れ替わる事となります。
強い日光に特に弱いヒメシャラやナツハゼ、コハウチワカエデ等は葉焼けがそのまま枝枯れに繋がるケースが実に多い為、注意が必要です。
ヤマボウシをシンボルツリーに
均整の取れた株立ち樹形が多いヤマボウシは、1本植えで美しいシルエットを楽しめる庭木であり、これはシンボルツリーにも向いている理由と言えます。
落葉樹の株立ちとしてはヤマボウシは剛健な部類になりますので、面積に余裕のある場所であればナチュラルシンボルツリーとしておすすめです。
それではヤマボウシをシンボルツリーとして植栽した実例を解説していきます。
アプローチで出迎えるシンボルツリーに
左右対称に近い樹形が多いヤマボウシですが、植える場所や演出に合わせて、この様に片側に傾いだ樹形を選んでシンボルツリーにする事もあります。
表情を与えられたヤマボウシはお出迎えのシンボルツリーとしてアプローチに馴染み、お住まいの入り口を優しく演出してくれます。
特にこちらの場合は周囲に低木類を寄せ植えしておりますので、少々の野趣も感じられる植栽デザインとも言えます。
最もヤマボウシを自然に楽しめる樹形ですので、ナチュラルなアプローチを楽しみたい方におすすめです。
洋風ナチュラルなシンボルツリーとして
こちらもアプローチで出迎えるシンボルツリーとして、ヤマボウシを植栽しています。
こちらのヤマボウシは樹高が3m以上のクラスとなり、樹形そのものも落ち着いた印象を持っています。
この位の樹高のヤマボウシとなりますと成長も若木に比べて緩やかになり、頻繁に枝詰めを行ってしまう様な事も避けられます。
木の高さを許容出来る場所であれば、ナチュラル感をそのまま生かせるヤマボウシはおすすめのシンボルツリーと言えるでしょう。
均整の取れたヤマボウシを和風シンボルツリーに
枝透かしを主とした剪定で維持したヤマボウシは自然な風格を保ち、和風のシンボルツリーとしての存在感も持ちます。
ヤマボウシやエゴノキは左右均等のバランスを持った樹形になりやすく、放任しておいてもこのバランスは保たれます。
バランスは保持したまま枝抜きを程よく行う事で健康を保ち、自然なシンボルツリーとして維持したいものです。
枝葉のボリュームが欲しい場合のシンボルツリーとして
ヤマボウシは放任すると扇状に広がりながら成長し、自然そのままのボリュームある姿を見せてくれます。
ヤマボウシが持つこの樹形は特に上部に幅を必要とする植栽計画に向いており、写真の様に大きな窓から存分に緑を眺めるというシチュエーションにもおすすめ出来ます。
幅を制約される事を嫌うヤマボウシですが、放任成長させる事が可能な場所であれば、他の雑木類で実現するのが難しい、均整の取れた美しい広がりを楽しめます。
スケールの大きなナチュラルシンボルツリーをご検討される場合は、まずヤマボウシが候補として挙げられるでしょう。
尚、ヤマボウシに限らずシンボルツリーをお選びされている方は、シンボルツリーの選び方とおすすめ樹種についてのページもご参考いただければと思います。
ヤマボウシにおすすめな植栽シチュエーション
ヤマボウシはシンボルツリーとして植栽する他にも、庭デザインにおける1キャストとしてのレイアウトも向いています。
シンボルツリーとはまた異なる、ヤマボウシにおすすめな植栽方法を実例で見てみましょう。
雑木らしさを活かしてナチュラルガーデンに
ヤマボウシは樹形が左右均等に整っている場合が多く、他の雑木と寄せ植えを行うと違和感を生んでしまう事があります。
ですのでヤマボウシは写真の様に庭でやや独立するレイアウトとし、周囲へ自然素材や低木を合わせると自然な雰囲気となります。
ヤマボウシは自然に樹形を乱さず幅が広くなっていく為、なるべく周囲を木で遮蔽しないレイアウトがお勧めとなります。
ヤマボウシはあまり多くの庭木を植える事が出来ない様な、小さなナチュラルガーデンに向きの雑木とも言えるでしょう。
明るいナチュラルガーデンにもマッチ
こちらは明るいナチュラルガーデンに合わせたヤマボウシで、多くの低木類を寄せて美しい景観を作っています。
扇状に広がって成長するヤマボウシなら、株立ちの木ではなかなか確保しにくい寄せ植え用のスペースが残ります。
ヤマボウシの成長は後々木陰を作ってくれる為、日光にさほど強くない低木でも寄せ植えとしてレイアウトする事が出来ます。
庭のテラスにヤマボウシを添える
お庭の中でくつろげるテラス、アウトドアリビングを設けるのも流行となっています。
この様なテラスで一層プライベート感を感じられる様に、樹高の高い雑木を添える事があります。
写真は私が庭づくりの際に設けたテラスですが、周囲が開けておりますと落ち着ける空間とは程遠くなってしまいます。
そこで写真の様に樹高のあるヤマボウシを1株だけ添える事で山間の様な雰囲気となり、心地よい空間へと生まれ変わります。
この様に雑木を1株だけ添えてナチュラル感を出したい、という場合にヤマボウシはおすすめな庭木です。
周囲に成長の妨げになる物や木が無いので、より自然な樹形へ成長させる事が出来るでしょう。
植栽の中でヤマボウシの自然なボリューム感を目立たせる
こちらは多種類の庭木を植栽した空間ですが、それぞれ樹高に差を持たせたレイアウトにしています。
その中でヤマボウシは自然なボリューム感のある雑木として一際目立ち、空間の中のシンボルの様な役割を持たせる事が出来ます。
ヤマボウシは樹高が上がるにつれて上部の幅も広がっていく為、遠くから眺めた際の存在感は雑木の中でも優秀です。
また、陽当たりが良ければ下枝が枯れていく事も少なく、上から下まで枝葉が充実した樹形を維持できるのも特徴と言えるでしょう。
ヤマボウシの育て方
適した土質
ヤマボウシが好むのは水捌けのよい適湿で肥沃な土壌であり、雑木らしく林床の様な環境を好む事がわかります。
庭に植える場合でもこの様な土質を作るのは難しくなく、赤土ベースに腐葉土を入れて調整し、樹皮堆肥なども加える事で山の土に近づける事が可能です。
ヤマボウシに限らず落葉雑木を植える時は、水捌けも良く適度な湿潤を持った土を作ってあげましょう。
植え付け
ヤマボウシの植え付けは葉が落ちている12月~3月までの間ですが、1月~2月の厳寒期だけは避けて行うのが無難です。
ヤマボウシは根巻きが硬く頑丈に仕上げられている事が多く、植え付け後の発根も速い庭木です。
ですので深過ぎない植え付けを行えば健康な浅根が張りやすく、根付きも速やかに行われます。
この為風止め処置も必須ではありませんが、風の強い場所だったり、根巻きが小さい品だった場合は簡易的な風止め処置を行っておきましょう。
水やり
ヤマボウシは剛健な落葉樹でもあり、庭木として定着すれば水やりの必要はありません。
根を張って落ち着くまでの期間は乾燥させない様にしますが、特に小さなサイズのヤマボウシを植えた場合は注意しましょう。
小さな木ですと根の付近に直射日光が当たりやすく、熱せられたり強い乾燥を起こす事がある為です。
ヤマボウシに限らず他の落葉雑木に言える事ですが、ある程度の樹高を有する木の方が自らに木陰を作りやすい為、生育も上手くいく事が多いです。
肥料
落葉雑木らしく、肥料は休眠期に行う寒肥が主になります。
葉が落ちている冬、1~2月の間に根の周囲へ油かすや骨粉を混ぜた有機質肥料を浅く埋めておいてあげましょう。
新芽展開時までに地中で有効化され、成長開始の力となってくれます。
ヤマボウシの剪定方法と実例
ヤマボウシは植栽後に成長しながら自然と樹形は整う為、状況に合わせて枝の間引きを行う剪定を基本としております。
環境やその木の傾向により、どこからの枝が徒長するかを予測するのは難しいので、混んできた部分は枝元から切る様に間引きをする事になります。
小枝の整理は分岐点でのカットを基本に
ヤマボウシの小枝は横方向へハナミズキの様な枝分かれをしていきますので、剪定ポイントとなる分岐点を探すのは容易です。
ですが分岐点で枝数を減らしていても木が太っていく傾向がありますので、ある程度小枝も育ったところで小枝毎の枝減らしも行う事があります。
つまりますところ、出来るだけ細い小枝は切らず、あくまでも数を減らすという剪定が理想です。
この様な剪定では維持できない場所へ植わっております場合は、ハナミズキと同様に分岐点での間引きを行って大きさを維持する剪定を行います。
その際は繰り返しの間引きによって太ってしまった枝を見つけ次第外し、少しでも剪定後の姿が柔らかく見える事を心掛けます。
樹高や幅は放任して枝透かしのみを行った美しい樹姿
ヤマボウシの理想の育て方でもある、枝透かしのみを行って自由に枝を伸ばさせた樹姿です。
幹元以外はほとんど切り痕がなく、方向性や成長速度が異なる枝を元から外すという作業だけを行いますと、この様にヤマボウシ本来の美しい樹形が見られるようになります。
写真のヤマボウシの樹高は5m以上ありますので環境によっては難しい育て方ではありますが、この樹高でもほとんど圧迫感を感じないことがお解りいただけると思います。
適宜枝透かしを行えば落ち葉の量もいくらか少なくなりますし、何よりもお住まい建物が非常に美しく引き立って見えます。
幅を小さくせざるを得ない場合の剪定事例
ヤマボウシは幅をなるべく小さくしたくない雑木です。
全体的に樹形を乱さず自然に大きくなる木であり、「詰める」剪定を加えると非常に見た目にも解りやすい変化が生じてしまいます。
ヤマボウシの幅を詰める為に切り戻し剪定を行った実例ですが、この場合は枝分かれの分岐点を主にカットする事が必要です。
小枝の無い箇所でのカットは直ちに強い枝の発生を誘発し、カット点から明らかに樹形の流れが変わります。
自然な樹形とは横向きの細い枝で構成されるものですので、剪定後に強い縦方向の枝を発生させない様に心掛けます。
分岐点での剪定を心掛け、幹回りの枝を透かして全体を軽く仕上げると写真の様になり、イメージとしては横幅が広く柔らかいハナミズキといった樹形となります。
大枝のみを取り払う、強めの更新剪定実例
かなり放任年数が長いヤマボウシの場合でも、懐の小枝が枯れずに残っている場合は更新剪定を行う事が可能です。
写真のヤマボウシに付いている細かい枝葉は全て「手を付けずに残した」ものであり、外したり切ったりしたのは大枝のみとなります。
細かな枝を手付けずに残す事が出来ますと、この様に幅を小さくしながらも柔らかな樹姿を残す事になります。
細かく柔らかい枝が多く残れば、切り口から徒長枝が飛び出してくる「吹き返し」も起こらず、美しい再成長をさせる事に繋がります。
ヤマボウシはケムシ(イラガ)の発生に注意
ヤマボウシはイロハモミジやハナミズキと同様に、人へも害があるイラガの発生が懸念されます。
不用意に葉に手を触れた際、手の甲や腕を刺されてしまう事が多く、夏は葉に食害が無いかよく観察する事が必要です。
イラガは発生初期ですと非常に小さく密集しており見付けるのが困難ですが、食害をしながら大きく成長しますので、食害された葉の観察が大切です。
イラガは葉の食害時、葉脈だけを残したりする事が多く、葉さえ観察していれば気付く事が出来ます。
葉脈だけ残された葉は遠くから見ると白見える他、木の下へフンが多く落ちる様になります。
イラガの集団を見付けた際は絶対に手を触れず、速やかに全体へ殺虫剤散布を行いましょう。
ヤマボウシで注意したい病気:うどんこ病
日陰環境においてもある程度適応してくれるヤマボウシですが、日陰かつ風通しが悪い場所ですと、やはりハナミズキと同じくうどんこ病を発症する事があります。
ヤマボウシは葉が大きい為にうどんこ病にかかった際の景観が非常に悪くなります。
対策としては、簡単にそのまま撒く事が出来るスプレータイプの殺虫・殺菌剤のGFオルトランCがおすすめですが、ヤマボウシは背が高い場合が多く、スプレータイプではコストも掛かってしまいます。
樹木全体への散布としては、私共も使用するSTサプロール乳剤等の希釈して使用する殺菌剤が適しています。
しかし目線よりも上への農薬散布は慣れない方ですと危険も伴いますので、お近くの業者様への依頼もご検討されるのが良いでしょう。
まとめ
庭木としてのヤマボウシを解説してまいりましたが、如何でしたでしょうか。
ヤマボウシはナチュラルなシンボルツリーとしてはもちろん、寄せ植え等も必要とせずに1株でナチュラルガーデンを構成してしまう存在感もあり、造園・庭のデザインにおいて頼れる雑木と言えます。
日陰に1株のヤマボウシを添えて、足元は宿根草を楽しんでいただくなど、シンプルなガーデンデザインも可能となりますので、ぜひヤマボウシの植栽をご検討されてみては如何でしょうか。
執筆者:新美雅之(新美園HP作成・作庭者)
庭木や庭デザインについて、作庭者の経験を活かして現実的に解説をするコンテンツを目指し、日々執筆しています。