カエデ科・カエデ属の樹木はとても多く存在し、葉の切れ込みが深い種類の木が「~モミジ」という俗称で呼ばれており、こちらで庭木としてご紹介を致します「イロハモミジ」もこれらに含まれます。
日本の美しい新緑や紅葉を代表する木であり、低山で自生する姿を始め、庭木として古い庭園や住宅の庭でも目にする事が出来ます。
目次
イロハモミジの基本データ
- 科名と属名 ムクロジ科・カエデ属
- 学名 Acer palmatum
- 分類 落葉広葉樹 小高木~高木
- 放任樹高 5m~7m
- 原産地(分布) 日本(福島県以南) 朝鮮半島 中国 台湾
- 別名 イロハカエデ
- 主な植栽用途 シンボルツリー、雑木の庭
カエデの名の由来は、万葉集にカエデの葉の形をカエルの手に例えた「蛙の手(かへるで)」という名称が残っており、「かえるで」→「かえで」という呼び名となった説があります。
イロハの名は5~7つに尖った葉先を「いろはにほへと」と数えた事に由来したと言われております。
「~モミジ」という呼び名は「紅葉する」という意味の方言である「もみず」が由来となった俗称であり、正式な植物分類名とは異なります。
しかし親しまれる呼称としては「モミジ」が圧倒的ではないでしょうか。
混同されやすい他のカエデ類との区別
カエデ類は国内で35種類存在し、様々な葉の形状を楽しむ園芸品種は120種類以上も存在します。
庭木として混同されがちなヤマモミジとの区別は詳しい方でなければ難しいのですが、分布地や葉の大きさ・形状に明確な違いがあります。
また、オオモミジもイロハモミジと似ておりますが、こちらは葉の大きさで区別する事が出来ます。
一般的に庭木として流通するのはイロハモミジが最も多いのですが、イメージが近いからか現在もヤマモミジと呼ばれてしまう事が多々あります。
カエデとモミジ、呼称の違い
~モミジと呼ばれる庭木は葉の切れ込みが深く、5~7列に分かれた葉がシャープな印象を持ち、凛とした雰囲気をも感じさせます。
この雰囲気から社寺での植栽では崇高な雰囲気を感じられ、山の雑木でありながら特別な存在感を有します。
~カエデと呼ばれる庭木にはイタヤカエデ、ハウチワカエデ等があり、樹高が高いトウカエデは街路樹で見る事があります。
カエデと呼ばれるこれらの木は葉の切れ込みが浅く、手のひらの様に見える可愛らしさがあります。
イロハモミジの植栽に適した環境
イロハモミジは他の雑木類と同じく、適湿で肥沃な土壌を好むとされておりますが、住宅地への環境適応性は高いです。
夏の直射日光にもある程度耐えやすく、山間と異なり周囲を木々に囲われていない単独植えでも剛健に育ちます。
イロハモミジについては日向や日陰、方角等、「この様な場所でないと育たない」といった側面は無く、どの様な場所でも環境に合わせた樹形となって育ちます。
直射日光に耐える雑木として
ナチュラル感を得られる雑木は近年人気がありますが、これらの庭木は陽当たりの良い場所に植えると夏の直射日光に耐えられないケースが多く、現実的には半日陰の環境を選ばざるを得ません。
しかしイロハモミジは夏の直射日光で最上部の葉は焼ける事があっても枯れには至らず、その他の葉は色の変化程度で済む事が多いです。
例えば社寺の庭園など、陽の照り返しも強い白川砂利や伊勢砂利の石庭の中にあっても、イロハモミジの姿を見る事があります。
これは広く一日中陽当たりの強い砂利庭でもイロハモミジが適応する事を示しています。
通常の落葉雑木であれば葉焼けの後、回復をせずに枝が枯れ込んでしまう所、イロハモミジであれば負ける事無く強く生育します。
日当たりの良い場所へ落葉樹を検討する際は、広大な庭であればコナラやクヌギ、小~中規模の住宅の庭であればジューンベリーやヤマボウシも候補に挙がる庭木です。
日陰ならではのイロハモミジの雰囲気
一言で言いますとイロハモミジは日陰でも育つ、という事になりますが、正確には日陰に対応しながら陽を求めて成長するといった表現が適当です。
写真は日陰(中庭)のイロハモミジですが、日陰となる下部には枝葉が残らず、上部へ優先的に成長をしているのが解ります。
イロハモミジはあくまでも陽射しを必要とする小高木であり、山間の環境と照らし合わせればこの樹形は極めて自然な姿と言えます。
高木の下で成長するカエデ類は少しでも陽に当たる為に樹高を伸ばし、光合成を行えない下枝は枯らしていきます。
幹や枝は細いままに、とにかく樹高を伸ばした柔らかい姿がイロハモミジ魅力であり、枝葉が頭上展開する様な雰囲気がお好みの方であれば、日陰へのイロハモミジは是非取り入れていただきたい植栽です。
イロハモミジの花
雌雄同株であるイロハモミジの花は4~5月に開花します。
イロハモミジと言えば紅葉が連想されますが、花が咲いた様も風情があり美しく感じられます。
下垂した花序に10個~程、大きさ数mmの小花を咲かせる為、全体に花が咲いた際は賑やかな印象となります。
木そのものが雌雄同株である為、上記の花序内に雄花と両性花が混じって存在します。
赤い小花は蕾の状態から目を引き、開花をすると小さな花火の様に存在感があります。
新葉の展開と同時に開花を見せる為、新緑の緑と花の紅色がコントラストを生み、春の訪れを賑やかに感じさせてくれます。
尚、カエデ類全体が雌雄同株なのではなく、雌雄が異株となるカエデもあります。
花の後に見られる翼果
イロハモミジは花の後、子房壁がへらの様に飛び出して翼状になった形の「翼果」を付けます。
カエデ類の場合は2つの子房からそれぞれ翼を出す為、中央に種があり左右に翼が付いた様な形となります。
この構造である為に種子が離れた場所まで飛びやすく、実際にイロハモミジの周りには多くの実生が見られる事があります。
イロハモミジの紅葉
イロハモミジは日本の代表的な紅葉としても知られており、さほど標高が高くない地域でも美しい葉の染まりが見られます。
条件さえ良ければ住宅の庭でも美しい紅葉が見られ、和洋を問わず庭を彩ります。
植える場所からイロハモミジの紅葉具合を予見する事は難しいですが、秋の色付きを意識してレイアウトする事はあります。
モミジは落葉樹でありながら主木として扱う事も出来る木ですので、紅葉を意識して庭の重点ポイントへ植栽しておくのも良いでしょう。
紅葉を楽しむ工夫
モミジといえば紅葉を思い浮かべられますが、これは植栽環境によって大きく左右され、排気ガスの影響を始めとした空気にも左右されます。
美しい紅葉には昼夜の気温差が必要なのはもちろん、車通りが少なめな場所が良いのかもしれません。
住宅地で紅葉を楽しむ場合は、夏に一日中日差しが当たる場所よりも、午前中だけ日向になる様な東側が良いかと思います。
また、植わっている足元へ直射日光があたらない場所を選んだり、低木植栽などで地表を保護する事も有効です。
自らの足元を日陰にするサイズのモミジであれば問題は無いのですが、その様なモミジを住宅地で維持する事は難しい為、植栽場所を工夫する方が現実的と言えます。
モミジの紅葉を意識する剪定時期
夏場などに剪定を施しますと、新しく吹いた枝葉が夏の日差しで焼けてしまい、紅葉時にも景観上悪影響を及ぼします。
新芽だけではなく日陰となる懐に元々あった小枝も日焼けする為、紅葉を意識するのであれば夏場は強い剪定をしない事が無難です。
出来れば落葉期である季節に剪定を行う方が紅葉への影響もなく、枝も見極めやすいメリットがあります。
切り口からの雑菌侵入を考えましても冬季の方が安全ですのでお勧めとなります。
優雅で自然な枝振りを楽しむ
イロハモミジは優雅な枝振りを見せますが、この樹形は木が自然に伸びた造形そのものであり、人の手によって綿密に仕上げられたものとは異なります。
もちろん剪定は施されておりますものの、モミジ自身の意思を曲げない様に行う事が求められます。
1本植えで庭の景観を締めるモミジの魅力
造園デザイン上、昔から「モミジは大いに威張らせる」という表現があり、イロハモミジは落葉樹の中では最も主木として据えられる事が多いです。
坪庭に一本、コーナーに一本など、イロハモミジはその場を単体で締めてしまう程の存在感を持っています。
また、モミジだけを連続させる様な植栽レイアウトを行っても、不思議と自然風景の様な美しさが生まれます。
下でも解説を致しますが、流通するモミジは株立ちと単幹で樹形が分かれていますが、単幹の方が生育が早い傾向があります。
ナチュラルな山間風景を求める際は単幹樹形が向いており、株立ち物は葉張りが必要な場合に向いています。
それではイロハモミジの樹形、株立ちと単幹について見てみましょう。
イロハモミジの樹形:株立ちと単幹
イロハモミジには庭植え用の植木として、
・複数本の幹で構成される株立ち樹形
・1本幹で骨格が整った単幹樹形
の両方が流通しており、それぞれが魅力的な持ち味を有しています。
株立ち樹形の魅力と植栽例
一般的な広さの住宅のお庭へモミジが植えられる際は、株立ち樹形の方を多く見掛けられるのではないでしょうか。
モミジの株立ちにつきましても、人為的に幹を繋げた寄せ株と天然で幹分かれをしている本株物があります。
寄せ株:整えられた樹形を添える
こちらのイロハモミジは美しく作られた寄せ株物です。
1株の植栽によって左右の幅を出したい場合、または樹形が均等に整っている様を求める場合に有効な樹形と言えます。
寄せ株物を選ぶ際は、根が頑丈に作られているか、細めの幹にだけ生育不良が見られないかどうか等、しっかりとした見極めが必要となります。
本株:大小の違いのある幹で自然味を楽しむ
こちらは幹元から自然に幹分かれをした本株立ちのイロハモミジです。
本株立ちの特徴は幹が生え際からそれぞれ外側へ曲がっており、放射状の広がりを見せているケースが多いです。
このタイプのイロハモミジは自然な幹の曲がりを持っており、それぞれの幹の太さや高さにバラつきが見られるのも特徴です。
自然な姿や幅、ボリュームも欲しい際に選ぶ樹形であり、弊社でもこちらの株立ちを選ぶ事が多くなります。
単幹樹形の魅力と植栽例
山で見られるイロハモミジの姿は多くが単幹の樹形であり、古くからの庭園で見られるのも一本幹の樹形が多いものです。
イロハモミジの単幹は自然そのものの姿をお庭へ表現する場合に重宝し、その扱い方は技量を要します。
植栽時には鑑賞方向はもちろんの事、幹の角度や他の庭木との共存バランスも考える必要があります。
山歩きの雰囲気作りに
イロハモミジの単幹は下枝が少なくなっている事も多く、これは自然そのままの姿と言えます。
枝が無い事はデメリットではなく、頭上に葉が展開する様な山の雰囲気作りとしてはもちろん、高い樹高のイロハモミジを植栽しても傍を歩く事が出来ます。
ですので単幹のイロハモミジを植えた際は木のすぐ脇までアプローチを作ったり、自然石を添えたり、あるいは他種の雑木低木を寄せ植えする事にも向いています。
無限のバリエーションを持つ単幹樹形
単幹樹形と言えば真っ直ぐな1本立ちを思い浮かべる方もいらっしゃいますが、イロハモミジの単幹を用いる場合の多くは自然な曲がりを持った木を選びます。
株立ちでは表現できない表情や趣が表れており、その形も無限であることから私も庭木選びを行う際は慎重に吟味を行います。
写真のイロハモミジはデッキ方向へ陽を求めて曲がって育った様をイメージしており、枝葉の展開をダイニング窓からも眺められる様に植栽計画に盛り込んだ木となります。
イロハモミジをシンボルツリーに
イロハモミジは1本による単独植えでも美しく見える樹形が多く、その樹形を活かすにはある程度開けた様な場所への植栽が必要です。
条件はありますがやはりイロハモミジはシンボルツリーとして向いている面が多く、美しさや象徴的な存在を添える植栽としておすすめ出来ます。
イロハモミジをシンボルツリーとした植栽事例を少しご紹介致します。
和風の庭に合わせてイロハモミジをシンボルツリーに
こちらでは玄関前に坪庭風のデザインを施しておりますが、この際イロハモミジがお住まいのシンボルツリーとして映える様にレイアウトしています。
先述の様にイロハモミジの単幹(一本幹)樹形は足元へのデザインが行いやすく、シンボルツリーにデザイン性を加える事が可能になります。
アプローチ側へ自然に傾ぐ姿を表現しやすいのも、イロハモミジのメリットと言えるでしょう。
モダンなマンションのシンボルツリーとして
モダンなマンションのエントランスへ植栽しました、単幹のイロハモミジです。
シンボルツリーとしての植栽ですが、冷たいコンクリートと柔らかな枝葉のマッチングが良く、イロハモミジは建物を選ばず馴染んでくれる庭木です。
下枝の少ないモミジは歩行の妨げにもなりにくい為、このまま上部を放任して立派に育てていく計画となります。
和風のお住まいへのシンボルツリーとして
イロハモミジが最も良く似合うのは、やはり和風のお住まいではないでしょうか。
こちらのイロハモミジは2.5mのサイズから剪定によって枝整理を繰り返し、10年程が経過したシンボルツリーとなります。
枝透かしは2年ごとに私が行っており、特に歩行の妨げやお住まいへの接触面に注意しながら成長させてきました。
かつてのマツやマキに代わり、現在はイロハモミジが和風のシンボルツリーの代表格となっており、その優し気な存在感と和風テイストが人気の理由となっています。
デザイン住宅と融合するシンボルツリーに
デザイン住宅と言えば、建築家による細部までおしゃれに設計されたお住まいを連想しますが、近年では無機質でシャープな設計よりもナチュラルにデザインされた住宅が増えています。
イロハモミジであればナチュラルデザインのお住まいとも非常に良く調和し、違和感なくシンボルツリーとして溶け込んでくれます。
これはイロハモミジが持つ自然味やクセの無さを始め、お住まいに合わせたい樹形バリエーションの広さが要因となっています。
上の写真ではシンボルツリーを植える場所が左端に限られておりました為、強い右流れのイロハモミジをご用意の上、さらに自然に見える限界まで右方向へ傾ぎを付けております。
この様にイロハモミジであれば植栽において細かな工夫を凝らす事ができ、住宅との融合完成度も高く仕上げる事が可能です。
尚、イロハモミジに限らずシンボルツリーをお選びされている方は、シンボルツリーの選び方とおすすめ樹種についてのページもご参考いただければと思います。
イロハモミジでおすすめな植栽方法と実例
イロハモミジの樹形や特徴をご紹介してまいりましたが、いざお庭への植栽や作庭材料として扱う場合、どの様な植え方がおすすめであるか、簡単にご紹介致します。
自然な樹高を活かしてお住まいを引き立てる
イロハモミジは流通する樹高の幅が広く、低い木では2m以下、高い木は7m~のものも手に入ります。
2m以下の木は植栽後の成長によって必ず樹高や幅も増してきますので、植栽時には特に気を付ける必要があるのですが、思い切った高い樹高(4m前後)であれば生育もある程度緩やな上、樹形も自然な木が多くおすすめです。
樹高のあるイロハモミジは樹形が左右均等である事は少なく、前後左右、どこかへ自然に傾いだ姿をしている事が多いものです。
成長を経たイロハモミジは自然な枝枯れによって整理されており、余分な枝や不自然に強い枝が無いのがメリットです。
この様に枝葉の少なくなったイロハモミジは遠景を意識した植栽レイアウトに向いており、特にお住まいとの引き立ち合いが美しく見えます。
建築デザインに力を入れたお住まいには特に有効ですので、是非ご検討してみては如何でしょうか。
庭のデザインに被せて奥行きを演出する
イロハモミジは自然な曲がりを持つ樹形が多く、この樹形を上手に活用すれば、庭のデザインをさらに引き立てる事にも役立ちます。
完成された庭デザインに横から覆い被せる様にイロハモミジを植栽すれば、お庭のフォーカルポイントがより遠く感じられる様になり、お庭に奥行き感が生まれるという訳です。
こちらのお庭のメインポイントである手水鉢周りですが、主に観賞する地点から見た際にイロハモミジの枝葉が風景に覆い被さる様にしました。
更に向こう側にもイロハモミジを植えており、風景に奥ゆかしさと植栽の一体感を織り交ぜています。
手前のイロハモミジは右方向へ、奥のイロハモミジは左方向に傾いでおり、頭上では枝葉が一体して見える様に調整を行っています。
庭のデザイン性を更に引き立てる脇役として、イロハモミジは大変おすすめな庭木です。
庭の頭上デザインを担うイロハモミジ
造園を行う際、足元のデザインは人の手によって作り上げる事は出来ますが、手の届かない「空間」をデザインする場合、これは庭木の存在感に頼るしかありません。
イロハモミジの枝葉は最も風情を感じられるものとして古来から親しまれており、和庭の頭上にモミジの枝葉が展開するだけで一つの風景として成り立ちます。
写真では一本のイロハモミジが庭の風景をまとめ上げており、手の届かない空中も枝葉によってデザインされているのがお解りいただけると思います。
イロハモミジの下を歩くアプローチ構成
モミジ類は成長と共に株の枝を枯らし、樹高があっても意外にシンプルで美しい樹形になってくれるものです。
アオダモも共通した特性でありますが、イロハモミジの場合は骨格がしっかりとしている為、その樹形・雰囲気を楽しむといった趣向に適しています。
右手がイロハモミジの株立ちでありますが、植栽したての頃は下枝も多く、アプローチへせり出しておりました。
しかし植栽後から数度に渡る剪定によって枝を整理しつつ樹高は許容して育てる事により、自然に近い樹形にする事が出来ています。
この樹形であれば枝葉の下を歩く様な野趣あるアプローチとして演出する事が出来ます上、この様な育て方のイロハモミジの方が成長が幾分緩やかになるというメリットもあります。
目隠しの植栽に混ぜて軽やかさを加える
目隠しの為に常緑樹を植える事がありますが、時には広範囲への目隠し対策として列植という手法が取られます。
しかし常緑樹の列植だけでお庭を埋めてしまいますと、やはりどうしても圧迫感や暗さを生み出すケースもあります。
このお庭では奥に3mの樹高を持つソヨゴの株立ちを2株列植えしております。
目隠しを目的の一つとしている事から、葉数の多い樹形を選んでおり、幹の数は2株合わせると6本程となります。
この為に庭の奥はどうしても若干暗い雰囲気となるのですが、目隠しが不要な1か所のみイロハモミジの自然樹形を植栽する事で全体へ自然味と柔らかさを添えています。
ここではウッドデッキ側へ枝葉が展開して育った様に見せる為、特に枝葉が美しく曲がったイロハモミジを選んでいます。
下枝も少ない為に通風も阻害する事がなく、別荘地の自然風景の様な雰囲気を楽しむ事が出来ます。
イロハモミジと和風素材の組み合わせ
イロハモミジはナチュラルな景観を楽しむ庭木としてはもちろん、古くから楽しまれる和風の庭との兼ね合いも魅力的です。
和の庭に自然味を、という添え方をされてきたイロハモミジですが、現代におきましても和庭とのマッチングに人気があります。
イロハモミジと垣根(人工竹垣)のマッチング
古くから和風の庭の代名詞とも言える存在である垣根。その雰囲気とイロハモミジの組み合わせは和庭の魅力をシンプルに凝縮した美しさであり、お庭へ手軽に取り入れられる手法でもあります。
程よく枝が透かされたイロハモミジであれば枝の隙間から垣根が美しく垣間見え、この上ない和の風情が楽しめます。
灯籠や手水鉢などの添景物と合わせるイロハモミジ
和庭の代表格ともいえる蹲(つくばい)は灯籠や手水鉢等の添景物で構成されますが、イロハモミジは古くからこの様な構成部分に添えられてきた庭木です。
イロハモミジの柔らか味が石材の持つ硬さを視覚的に和らげ、添景物だけが主張して見えない上品な景観に見える様になります。
シンプルに、イロハモミジの足下へ小型の灯籠だけを添える手法もおすすめであり、こちらも手軽にお住まいへ取り入れる事が出来ます。
格子など、和風様式とのマッチング
和風の素材は庭だけではなく、お住まいそのものにも見られます。
例えば木の縦格子の意匠もそれにあたり、この様なお住まいとイロハモミジはとても良く似合います。
シンボルツリーとしてお住まいに寄せる他、写真の様にあえて距離を取った場所へ植栽しますと、それはまた違った魅力を醸し出してくれます。
お住まいの意匠とイロハモミジを組み合わせる場合は写真の様な距離感に加え、モミジも背が高い木とする事がおすすめです。
イロハモミジは遠景が特に引き立つ庭木でありますので、可能であれば背の高い木が望ましくはあります。
イロハモミジの育て方
植え付けの時期
ご自身での苗木植え付けは12月から3月まで、イロハモミジが落葉している間に行います。
イロハモミジは根の走りが速い為、移植などは困難な一面もありますが、やはり根切り・根回しは落葉期に行う事が基本です。
適した土質
日照には耐えるイロハモミジですが、乾燥気味の土質は嫌います。
腐葉土や樹皮堆肥に加え、黒土などの保水性の高い土も混ぜ込んで植えると良いでしょう。
水やり・肥料
新葉が展開して成長を進めている時は、強く根が乾燥すると萎れてしまう事もよくあります。
アジサイなどと同じく乾燥に気を付け、逞しい庭木に成長するまでは水やりも意識してあげましょう。
ある程度根付いたイロハモミジであれば、水やりの必要も無くなります。
肥料は植え付けの際、元肥として根の底や周囲に有機質肥料を埋めておきましょう。
また寒肥として、落葉後に油かすや骨粉等の有機質肥料を根の周囲へ埋める様に行います。
イロハモミジの剪定方法と実例
イロハモミジは剪定が最も難しい木かもしれません。
実は生育も早く伸びも強く、かと言って単純に強く切り詰める訳にもいきません。
イロハモミジがどう伸びたいのかは、強い枝を外しておとなしい小枝を観察すれば掴む事が出来ます。
樹形を矯正しない場合は、おとなしい枝を放任させれば自然な姿を維持出来ます。
イロハモミジは樹高を低く維持しようとするのは難しい(樹形が崩れる)木である為、植栽計画時からある程度自由に展開出来る場所を考えておく事が必須です。
場所選びを慎重に行い上手に剪定をしていけば、建物脇から生える風情や狭い坪庭でも美しい景観を作る事が出来ます。
尚、イロハモミジは落葉樹でありますので、出来る限り冬季に行う事が無難です。
葉のある時期に行う場合は、大きめな切り口へ保護剤の塗布を行い、雑菌の侵入を防ぐ事が必須です。
イロハモミジの更新剪定
モミジは根付き後は一年間で左写真の様に枝を伸ばします。
この特に強く伸びた枝(徒長枝)は途中を切り詰めてしまうとそこがそのまま樹形となって太り始め、これを毎年繰り返すとあちこちに団子状の塊が形成されてしまいます。
上の剪定では徒長した枝葉に隠れて見えなくなった小枝を探し出し、それらが次回の樹形になる様に「残す」事を目的として行っています。
これは切り戻し剪定とは異なる「更新剪定」という手法になります。
剪定後の樹形は手付けずの小枝だけで形成される為に仕上がりも自然で、次回の生育も緩やかになります。
手付かずだったモミジへ、枝振りを決める剪定を施す
左は植栽後数年間、手付けずの状態だったイロハモミジです。
庭職でなければとても元に戻せるという発想は浮かばない状態ですが、あちこちを切り詰めてしまっていない限りは、小枝を探して樹形となる骨格のみを残す剪定処置が行えます。
上の剪定は実に半分以上に上る不要枝や幹を取り外し、新たな樹形を切り抜く感覚で行っております。
切り跡の痛々しい強剪定はなるべく避け、まずはモミジ自身が持つ柔らかな必要枝を活かしきる事が大切です。
同じくこちらのイロハモミジも植栽後数年弱が経過しており、それまでは放任の状態でした。
このイロハモミジは株立ちではありますが、植栽時は幹の本数が多かった為、この剪定タイミングを見計らって幹数を減らす計画としておりました。
樹形としては地面立ち上がりからの枝分かれを最低限の回数となる様にし、幹周りがスッキリ見える様に仕上げています。
これなら次回剪定まで風通しも妨げず、不要な枝の発生がすぐに確認出来る様になります。
イロハモミジは無駄のない骨格が最も美しく見えますので、植栽後の早い段階から剪定を施していく事が有効です。
イロハモミジで注意したい病気・害虫対策
モミジ類が避けて通れないのが病虫害ではないでしょうか。
イロハモミジは人体にも有害なイラガの発生が起こりやすい為、予防としての薬剤散布を想定しておく必要があります。
予防の薬剤散布は発生後とは異なり、木全体への散布が必要となります。
しかしモミジは薬害が起こりやすい為、他の樹木の様に予防として全体に散布をするのは避けたいものです。
散布を行わざるを得ない場合は規定よりも薄い希釈にて、日焼けをしない夕方~夜間に散布する事を推奨しております。
ピンポイントの農薬散布で済ますには、日頃から発生箇所が無いか観察している事が望ましいでしょう。
モミジのへのアブラムシは予防措置を
モミジ類は新芽に寄生するアブラムシが非常に発生しやすい為、こちらは予防措置としてオルトラン等の粒状殺虫剤(浸透移行性)を株元へ撒いておくのが最も効果的です。
アブラムシが発生してしまった後ですと周囲を分泌液で汚してしまう上、モミジが苦手とする薬剤散布を行わざるを得なくなりますので、やはりアブラムシ対策については発生前の予防措置が大切となります。
テッポウムシ・アリの侵入にも注意
イロハモミジに限らずカエデ類はアリやカミキリムシが穴を空けて侵入する事があります。
健康な木でも、小さな枯れ枝の付け根やカミキリムシのかじった跡、幹そのものから中へ入ってしまう事があり、木のダメージも大きくなるケースが多いです。
侵入された場合は幹の足下に木粉が落ちて溜まっている事が多いので、これを発見する事が大切です。
発見した際は木に小さく空けられた穴を見付け、そこへ殺虫剤を注入する必要があります。
この穴へ噴射できるタイプの殺虫剤が市販されていますので、もしもの際に備えておくのが良いでしょう。
イロハモミジのポイントまとめ
ここまでご紹介をしてまいりましたイロハモミジですが、庭木としておすすめ出来るポイントと注意したいポイントをまとめます。
おすすめなポイント
- 庭の主役にもなる存在感と風情を併せ持つ
- 庭や雰囲気に合わせる樹形バリエーションが多い
- 陽射しに強くシェードガーデンの日除けにもなる
- 代表種とも言われる紅葉の美しさ
注意したいポイント
- 小さな若木は非常に成長が早い
- 毛虫類の発生リスクが高め
- 健康な木でもアリの侵入で枯れる事がある
- 剪定に技量を要し、DIYでの維持が難しい
如何でしたでしょうか。
イロハモミジは特有の存在感があり、強い印象から繊細な印象まで、樹形によってあらゆる演出をしてくれる庭木です。
イロハモミジは成長力に困ってしまわれる事もありますが、やはりこれは当初の植栽計画時に将来の樹高を想定していなかったケースが多いです。
日陰のモミジは上へ上へ伸びていきますし、陽当たりが良ければ上も下も相応に横幅が出てくる庭木です。
植栽計画を上手に行い、当初から出来るだけ樹高のあるサイズのイロハモミジを選ぶ事がおすすめです。
執筆者:新美雅之(新美園HP作成・作庭者)
庭木や庭デザインについて、作庭者の経験を活かして現実的に解説をするコンテンツを目指し、日々執筆しています。