エゴノキはエゴノキ科の落葉樹で、自然そのままの姿を楽しみたい庭木です。
落葉樹の中でも一際自然の趣を感じられる樹姿に加えて花も魅力的なエゴノキは、古くから和洋を問わない落葉樹として庭づくりにも用いられてきた雑木です。
里山にも自生する身近な雑木ですので、庭植えにしても育ちやすい面があります。
自然樹形を楽しむシンボルツリーとして植栽される他、ナチュラルガーデン・雑木の庭においても多用される庭木です。
小さな葉がそよぐ涼しげな姿が人気のエゴノキについて、ご紹介と解説をしてまいります。
目次
エゴノキの基本データ
- 科名と属名 エゴノキ科・エゴノキ属
- 学名 Styrax japonicus
- 英名 Japanese snowbell
- 分類 落葉広葉樹 小高木
- 放任樹高 12m ※庭植えの場合は8~9m程
- 原産地 日本、中国、朝鮮半島、台湾、フィリピン
- 別名 チシャノキ ロクロギ
- 開花期 5月~6月
- 主な植栽用途 雑木の庭 シンボルツリー
実を口に入れてしまった際に、含有毒であるエゴサポニンによって口中が「えぐく」なる事が名の由来。
丈夫な木材としての一面があり、将棋の駒やおもちゃ、櫛の材料として用いられる。
エゴノキの特徴
エゴノキは自然な樹形の他、下垂する美しい白花や個性的な実成り等、季節を通してあらゆる姿を楽しめる雑木です。
まずはエゴノキの枝葉や幹の特徴を見てまいりましょう。
エゴノキの葉
エゴノキの葉はさほど大きくはなく、庭木として植栽する時には4cm程度である事がほとんどですが、根付いて木が成長すると葉も8cm程となり、存在感も増してきます。
ヤマボウシ等と比べると葉脈は薄く、目立つものではありません。
秋の色付きは黄葉となる事が多く、紅色とは異なる美しさを見せます。
エゴノキの幹
若いエゴノキの幹は灰色で滑らかな印象です。
庭木として持ち込む時はこの幹を持った木がほとんどで、成長を経る事で幹模様が変化していきます。
エゴノキはアオハダやアオダモと同じく、地衣類によって幹に縞模様が付く事もあります。
庭木用として流通するエゴノキはほとんどが武者立ちと呼ばれる均等株立ち樹形であり、左右均等に近い木が多くみられます。
同じ樹形傾向が多い庭木(植木)としてはヒメシャラやヤマボウシがあり、エゴノキとの比較候補として検討する機会が多くなります。
年数を経て成長したエゴノキの幹は若木と少々異なり、幹皮が細かく剥けている印象になります。
しかし大きな木としては滑らかな幹を持っており、自然なうねりや曲がり等、ナチュラルな姿を見せてくれます。
エゴノキはこの幹の質感が美しい為、幹自体を鑑賞目的とする自然な庭に良く合い、山間の雰囲気を身近に楽しむ事が出来ます。
エゴノキの落葉期から芽吹き
エゴノキは落葉樹ですので、当然冬季は葉が落ちた姿になります。
他の落葉樹に比べてエゴノキは冬芽が小さく目立たない為、エゴノキの落葉期は枯れた様な姿に見えてしまう事もあります。
エゴノキは他の落葉樹に比べて非常に細かい枝が多く、実際に枯れ枝が常に付いている木でもあります。
細かい枯れ枝が常に付いているのがエゴノキの特徴ですので、柔らかな枝のシルエットをお望みの際は、やや注意したい点かもしれません。
枯れ木の様な姿から一気に芽生える新葉
枯れ木の様な姿から一転、春には一斉に細かい芽が一気に吹き始めます。
幹回りからも新しい葉が出始める賑やかな時期ですが、葉が発生せず実際に枯れている枝も発見できます。
枯れている小枝は可能なだけでも取り除いてあげるのが良いでしょう。
エゴノキの花
5月~6月に咲くエゴノキの花は、花数も多く枝いっぱいに釣り鐘の様に下垂します。
自然な樹形を保ったエゴノキの開花期は、花が白雲の様に見えて美しく、お庭の主役になってくれるでしょう。
花付きについても健全な木であれば安定して数多く咲きますので、毎年の楽しみとなってくれます。
花や実が似ている樹木としてハクウンボク(白雲木)が知られておりますが、花の大きさや葉の形が明確に異なるので区別する事は容易です。
エゴノキの紅花品種
エゴノキと言えば白花がイメージされますが、ピンク色の花を咲かせる品種も存在します。
エゴノキの紅花品種としては、
- ベニガクエゴノキ
- ピンクチャイム(園芸品種)
が知られています。
ベニガクエゴノキは萼片・花柄の一部が濃いピンク色になり、花弁は薄いピンク色といった花の構成です。
ピンクチャイムは植木市場では簡単に「紅花エゴノキ」とも呼ばれる園芸品種であり、花弁全体が濃いピンク色になる花を咲かせます。
毒を含むエゴノキの実
エゴノキは花が咲いた後、同じ様に下垂する形で実を付け、10月頃に成熟します。
このエゴノキの実は(花も含む)、皮の部分には毒素であるエゴサポニンが含まれており、誤食をしてしまうと胃腸障害・溶血を起こす事があります。
実は固いので誤食をしてしまう可能性は低いのですが、かつては魚毒として実をすり潰して川の下流へ流すという漁が使われていた時代もあり、一応の注意は必要です。
熟した実は皮が自然に裂け、種が地面に落下します。
樹形が異なるシダレエゴノキとは?
エゴノキには枝垂れ梅や枝垂れモミジの様な樹形を持つ、シダレエゴノキも存在します。
新しい枝は上方向にやや伸びた後、弧を描く様に下向きになって伸びていきます。
この為、樹高や幅が急激に大きくなってしまう事が無く、実は管理がしやすい樹形でもあります。
シダレエゴノキの植栽場面は?
シダレエゴノキはいわゆる盆栽型、頭を綺麗に整えた芸術的な樹形が多く流通し、庭木のサイズで整えられたシダレエゴノキは価格も高価です。
かつての和庭で見られた様な枝垂れ樹形を持ちますので、雑木の庭へ自然に添える通常のエゴノキとは異なり「木を飾る・据える」といった扱いで植栽されます。
シダレエゴノキの花
枝垂れに沿って咲いた、シダレエゴノキの開花期の様子です。
枝も花も下垂した様子は和風の風情も感じられ、侘びた美しさがお庭を彩ります。
エゴノキの成長傾向
エゴノキは生育がおとなしい、といった事もお聞きしますが、厳密に申しますと高さ~2mサイズの若木は成長が非常に早く、樹高3m~前後になったエゴノキは生育が緩やかになり始め、5m前後になると極端におとなしくなる傾向が見られます。
小さく若いエゴノキを植えてしまうと若木特有の速い成長を見せ、慌てて切り戻した途端に強い吹き返しが繰り返し起こって樹形も崩れてしまう、という事がよくあります。
落葉樹全般に言える事ですが、小さな木がそのままの大きさ・姿でいる事は絶対にございませんので、生育後の写真などもご参考いただく事がおすすめです。
エゴノキの植栽でおすすめなサイズ
エゴノキの植栽を検討する場合、小さなサイズの木を植える事はあまりおすすめが出来ません。
小さなサイズから育てて美しい自然樹形とするのは難しく、やはりある程度の大きさで綺麗な形が出来上がっているサイズがおすすめとなります。
低くても2.6m、可能であれば3m~のエゴノキであれば、生育による樹形の変化も少なく、生育自体も若木よりおとなしくなります。 ※ジューンベリーも同じく共通します。
エゴノキをシンボルツリーに
エゴノキは繊細でナチュラルなシルエットを持っておりますので、ナチュラル志向のお住まいのシンボルツリーとしてもおすすめです。
エゴノキが持つナチュラル感により、玄関先に限定せず、芝生の庭に1本生えているようなシチュエーションも似合います。
小庭の中でエゴノキをシンボルツリーにする
こちらでは複数の植栽を施した中に、エゴノキをシンボルツリーに見える様にレイアウトしています。
透け感のあるエゴノキはシンボルツリーにても背後がよく見えるという事もあり、庭の中で引き立てる植栽にも向いています。
エゴノキは樹高が3m以下ですと幹が細めの場合も多く、この繊細さも他の木々と合わやすいという利点に繋がると思います。
庭のシンボルとして
エゴノキをシンボルツリーとして植栽するのであれば、横方向への柔らかな広がりは維持したいものです。
エゴノキは日光を遮断されて日陰になった部分の枝をすぐに枯らせてしまう程、遮蔽物を嫌います。
ですのでシンボルツリーとして植栽をする場合は、周囲が均等に開けた様な、極力枝詰めを行わずに済む環境であるかを確認しておくのが良いでしょう。
写真は庭のシンボルとしてエゴノキ植栽をしており、周囲は開けた場所になっています。
この様な場所であれば柔らかな横向きの枝を放任して育てる事ができ、エゴノキらしいナチュラルな姿を維持する事が出来ます。
一本幹のエゴノキをシンボルツリーに
こちらはマンションのシンボルツリーとして植えられたエゴノキですが、多く流通する株立ち樹形とは異なり、一本幹の形をしています。
エゴノキの一本幹樹形は山の姿そのものであり、太く滑らかな幹肌が魅力的です。
株立ち樹形よりも木自体が剛健であり、経年による枝枯れ進行も起こり難いのが特徴です。
また、この様な樹形ですと傘状に枝葉が展開する為、強い直射日光が幹を傷める事も少なくなります。
自然そのままのエゴノキをシンボルツリーとして取り入れたい場合はおすすめです。
尚、エゴノキに限らずシンボルツリーをお選びされている方は、シンボルツリーの選び方とおすすめ樹種についてのページもご参考いただければと思います。
エゴノキの育て方
適した環境
落葉樹としてはやや日光に耐えうる性質を持っていますが、やはり長時間の夏の直射日光が当たる場所では葉が黄ばみ、小さな枯れが登頂部から下ってくる恐れもあります。
この為、エゴノキの美しい姿を維持する為にも、半日陰や東側等への植栽が無難です。
または、他種や同種の雑木で寄せ植えを行うと木漏れ日程度の環境を作る事が出来ますので、雑木の庭におすすめのレイアウトです。
また、上部を放任成長させる事で自らに木陰を作る様になりますので、乾燥対策としても放任生育が望ましい庭木でもあります。
日陰への植栽は?
暗い日陰へエゴノキを植えますと枯れ枝が多くなり、葉数も減らし始めます。
また、同時に葉も大きくなってきますので、日向のエゴノキとはかなり異なる姿になる事を想定しておきましょう。
しかしやや明るい日陰へエゴノキを植えますと上部は健康に育ち、下部は自然に枝を枯らしていく様になります。
ですので日除けとして木陰を得ながらも足下はスッキリと広くなり、足元へ庭としてのデザインも施しやすくなります。
この特性から、エゴノキはイロハモミジやアオダモと並んでシェードガーデンの日除けとして植えられる事も多く、野趣ある自然な庭木として重宝します。
植える時期と適した土質
ご自身でエゴノキの植え付けをされる場合は、葉が落ちている落葉期に行うのが望ましいです。
しかし最も寒くなる1月~2月は避けるのが良いでしょう。
エゴノキが好む土質は保水性と腐植質に富んだ砂壌土~埴壌土で、乾燥に弱い一面があります。
水捌けと保水性を兼ね備える為に、樹皮堆肥や腐葉土を豊富に含んだ土で植え付けます。
乾燥を確認した際は水遣りによって湿潤状態を作ってあげる事を心掛けましょう。
乾燥対策として、植え付けた地表へ低木類やグランドカバーを植栽して直射日光から保護する事も有効な方法です。
水やり・肥料
エゴノキは成長して大きくなるまでは乾燥に目を配り、強い乾きが放置されない様にしましょう。
庭木として根付いて落ち着けば、山の雑木と同じく水遣りに気を使う事はありません。
肥料は花後に遅効性の化成肥料を撒いてあげる程度で良く、これは開花による疲れを補ってあげる様な感覚です。
エゴノキの剪定方法
エゴノキの剪定は落葉期に行う事が望ましいですが、やむを得ず葉のある時期に行う場合は花後に行う様にします。
エゴノキは幅や高さを揃える様な「カット」を行ってしまった後の樹形の崩れが顕著であり、ナチュラルな樹形に戻す事が相当に難しくなります。
エゴノキの若木は相応に細長い枝を伸ばしていく為、やはり植栽当初から優雅に伸ばす様に計画するか、予め背の高いサイズの安定した木を植える事がおすすめです。
不要枝の見極め
エゴノキの剪定は成長過程で発生する不要枝を見極め、それを取り除く事が作業の要となります。
- 幹元からのひこばえ
- 枝元から発生する徒長枝
- 発生時から真上へ伸びようとする強い枝
- 内側へ向かって他の幹と交差する枝
- 生育によって枯れた古い枝・小枝
これらを除去する事が主な剪定作業となり、数年に一度程で枝透かしや整理を行う感覚となります。
エゴノキにとって樹形を柔らかく見せる小枝は本当に細く、触れると枯れ枝の様に折れやすい性質があります。
剪定作業の際は手や腕で大切な小枝を折ってしまわない様に気を付けましょう。
エゴノキで注意したい害虫と対策
新芽が展開する時期はあらゆる庭木でも注意するアブラムシですが、エゴノキの場合はエゴノネコアシに注意が必要です。
毎年の様に発生する様な状況の場合は、予めオルトラン粒状等を株元に撒いて予防とするのが効果的です。
また、人体にも被害を加えるイラガにも食害される事があります。
イラガの発生時は木全体への殺虫剤散布を行い、駆除の残しが無い様にしましょう。
また、エゴノキはカミキリムシの成虫・幼虫が見付かる事もあります。見付けた際は必ず取り除く事を心掛けましょう。
エゴノキのポイントまとめ
ここまでご紹介をしてまいりましたエゴノキですが、庭木としておすすめ出来るポイントと注意したいポイントをまとめます。
おすすめなポイント
- 繊細な枝で自然味ある樹形を楽しめる
- 下垂する独特の小花が美しい
- 樹高が高くなると生育もおとなしい
注意したいポイント
- 若木の内は成長が早い
- 冬季は特に枯れ木の様にも見える
- 誤食する可能性は低いが花と実に毒性がある
- アブラムシや毛虫など、害虫被害の可能性がある
如何でしたでしょうか。
エゴノキはとにかく自然な樹形が魅力であり、小花や黄葉など、お庭をナチュラルガーデンにしたい場合には特におすすめ出来る庭木です。
害虫被害などに注意する必要はありますが、手付かずの自然を演出する場合に重宝する雑木ですので、庭木の候補としてお考えになられては如何でしょうか。
執筆者:新美雅之(新美園HP作成・作庭者)
庭木や庭デザインについて、作庭者の経験を活かして現実的に解説をするコンテンツを目指し、日々執筆しています。