ギンバイカはフトモモ科、ギンバイカ属の常緑低木で、主に洋風デザインの庭へ植栽をしております。
植木として取り扱われる際はギンバイカと呼称されておりますが、ハーブとしても有名で英名ではマートル(Myrtle)と呼ばれます。
おしべが美しい白花は開花期間も長く、花数も多くお庭を美しく彩ってくれます。
目次
ギンバイカの基本データ
- 科名と属名 フトモモ科・ギンバイカ属
- 学名 Myrtus
- 英名 Myrtle(マートル)
- 分類 常緑広葉樹 低木
- 樹高 2m~3m
- 開花期 6~7月
- 実の成熟期 10月
- 原産地 中東 地中海沿岸部
- 別名 祝いの木 銀香梅(ギンコウバイ) 銀香木(ギンコウボク)
- 主な植栽用途 シンボルツリー 目隠し プランター・鉢植え
銀色に見える様な美しい花が梅にも似ている事から、銀梅花と呼ばれる様になっています。
ハーブ名である「マートル」は、葉を揉んだ際に出る芳香がユーカリに似ている事に由来しています。
果実と葉を使ったMirto(ミルト)という果実酒も作られている他、歴史的にはコショウの様な利用方法をされていた事もあります。
作庭者から見ると「ギンバイカはこんな庭木」
花を楽しめる洋風低木として人気のギンバイカですが、作庭者の目線から考えますと以下の様なポイントが挙げられます。
おすすめなポイント
- 芳香のあるハーブ葉でおしゃれな雰囲気に
- 花期も長い美しい花を楽しめる
- 病気や害虫の被害がほとんど無い
注意したいポイント
- 成長力が強く毎年伸びる枝が長い
- 根付くまでは強風で倒木しやすい
- 雪の重みで枝が折れやすい
それではこれらのポイントを交えながら、庭木としてのギンバイカについて解説をしてまいります。
ギンバイカの歴史
ギンバイカはヨーロッパやアラビア地域にて、古くから庭木・ハーブとして栽培されていた歴史があります。
神話・伝説にも多く登場しており、神木として崇められてきた他、不死・復活の象徴としても大切に扱われてきた庭木です。
別名として「祝いの木」と呼ばれる様に、これらの地域では現在でも結婚式のおいての花飾りとして使われています。
有名なアルハンブラ宮殿にも「ギンバイカの庭」があり、庭木としての長い歴史と美を感じさせてくれます。
日本には明治時代に渡来しており、現在まで「マートル」というハーブ名でも親しまれています。
ギンバイカの特徴
ギンバイカは剛健で活き活きとした葉を楽しめ、夏に花を楽しむ事が出来る庭木です。
庭木としてはそれほど有名ではなく頻繁には扱われない様ですが、実はギンバイカは個性的でおすすめ出来るポイントが多い庭木です。
その特徴を見てまいりましょう。
シャープで芳香のある葉
ギンバイカの葉は光沢がある美しい緑色であり、大きさは3~5cm程と庭木としては小葉の部類になります。
葉数はびっしりと多く、多くの樹形では幹・枝模様はほぼ見えない事が多いです。
先端が尖った葉はシャープな印象であり、見方によっては「菱形」の様に感じられます。
葉の先端が尖っていてシャープな印象であるのはオリーブと共通しており、ギンバイカとオリーブは原産地と栽培の歴史も似ている庭木でもあります。
ギンバイカの葉の最大の特徴は、やはり揉んだ際に放たれる芳香ではないでしょうか。
フルーティーとも言われる独特の香りは人気があり、ギンバイカがハーブである事を再認識させてくれます。
冬季には葉が赤味を帯びる事も
寒い季節になると部分的に赤味を帯びた葉になる事があり、また違った美しさを楽しめます。
多くの場合、常緑樹の冬季の変色は「傷んだ」という印象があるものですが、ギンバイカの場合は色が変わったという印象に留まります。
しかし冷たい風が当たり続ける場所ですと葉は極端に傷み、部分枯れを起こす事もあります。
ギンバイカの幹
ギンバイカの幹は成長すると樹皮が自然に剥け続ける姿となり、赤褐色で美しいものです。
弊社ファームに在庫の、幾度か剪定を施しているギンバイカの幹です。
ギンバイカの幹はたくましく成長しやすく、太くなっていく事を考慮しておくのが良いでしょう。
剪定によって維持した木の幹が背丈の割に太いという部分では、これもオリーブと似ているのではないかと思います。
ギンバイカの花と実
ギンバイカの蕾
ギンバイカは6月を過ぎた頃になりますと、枝先付近からたくさんの蕾が出てきます。
蕾は枝先から分岐する様に伸びて離れていき、そこから更に開花へ向けて膨らんでいきます。
長いおしべが美しい白花
ギンバイカの花は6~7月に開花し、花期もやや長く楽しめるのが特徴です。
ギンバイカの花は真っ白で雄しべが花火の様にも見え、花数も多く木全体に美しく咲きます。
5枚の花弁を持ち雄しべが目立つ花は梅にも例えられ、銀梅花という名前の由来にもなっています。
ギンバイカの花は2cm程の大きさで木全体に多く咲き、時期的にミツバチも呼び寄せます。
弊社ファームですと相当の数のミツバチが訪れ、この風景もまた風情がある様に思えます。
ギンバイカの実
ギンバイカの花が終わると小さな実が付き、段々と紫色に色付き、10月には黒青色に熟します。
この実には良い芳香があり、食用としても楽しめます。
しかし可食部分は非常に少なく、熟し具合が足りないと非常に味が渋く感じられます。
この為、本来ギンバイカの実は主に果実酒作りに使われる等、加工用としての用途が適しています。
シンボルツリーや目隠し、生垣としての植栽にも
ギンバイカは実は用途が幅広い庭木であり、これは強い生命力と萌芽力の賜物と言えます。
ギンバイカは旺盛な成長力がありますので、周囲に遮るもの(フェンスや他の植木)が少ない場所で、自由に育てられる暖かい場所への植栽がおすすめです。
単体で植えるシンボルツリーや目隠しにも向いていますが、壁際などが近い部分は枝が無くなってきますので、予め空間に余裕を持った場所へ植栽しておきます。
刈り込み剪定に対しての萌芽力もあり生垣として植栽する事も出来ますが、一年間での生育を見込み、枝が伸びた余裕のある姿を楽しむ、スケールの大きな生垣にしたいものです。
ギンバイカとオリーブをダブルシンボルツリーとして
共に地中海沿岸が原産地とされるギンバイカとオリーブは、葉色や形が違えどもどこか共通した清々しい雰囲気を持ち合わせています。
この2種類の庭木でアプローチを挟み込む様に植栽し、ダブルシンボルツリーとした実例となります。
ギンバイカもオリーブも成長力があり、通常ではアプローチ脇への植栽には不向きですが、こちらの様に階段状の通路となっている場合は頭上へ枝葉が展開される為、歩行も妨げにくく成長と共に雰囲気も宜しくなっていくのではと考えます。
尚、ギンバイカに限らずシンボルツリーをお選びされている方は、シンボルツリーの選び方とおすすめ樹種についてのページもご参考いただければと思います。
葉密度の高さを活かして目隠し用の植栽にも
ギンバイカは小さな葉を多く持つ為、葉密度が高く目隠しの植栽としても活用できます。
ギンバイカはこの様に、植栽した向こう側がほとんど見えない庭木です。
強剪定を行った際は透けてしまいますものの、すぐさま萌芽した枝葉が目隠し効果を作り直します。
暖地の常緑樹は冬季に葉を減らしてしまうものですが、ギンバイカは寒さによる落葉がそれほど多くない為、通年の目隠しとしておすすめ出来る庭木です。
プランターへの植栽で生垣仕立ても可能
乾燥にも耐えやすいギンバイカであれば、プランターへの植栽も可能ではあります。
こちらは窓前の目隠しとしてプランターを設置し、ギンバイカを生垣風に仕立てた植栽実例です。
大きな葉がびっしりと付いた庭木ですと圧迫感を感じてしまいますが、ギンバイカの様にシャープで細かい葉ですと、不思議とおしゃれな生垣に見えてしまうものです。
植栽場所が南側であれば建物によって北風が防がれる事になりますので、冬季のダメージも最小限で済みます。
ギンバイカの植栽計画時は、北風の当たり具合も考慮しておきましょう。
こちらはプランターとは異なりますが、設置された狭小植栽用スペースへギンバイカの生垣を仕立てた実例となります。
狭小箇所への植栽は避けたいギンバイカですが、この様に裏側に枝が無くても良い様な場所であれば植栽は可能です。
裏側は速やかに枯れてしまいますが表面は美しい葉が残りますので、裏側を気にしない場合はこの様な緑の美しいスクリーンを作る事が出来ます。
生垣については詳しく解説するページもありますので、併せてご参考下さい。
関連記事>>>生垣とは?メリットや注意点、おすすめ全21種類を花・洋風・低木等のテーマ別にご紹介
植木として流通するギンバイカ
庭木用として流通するギンバイカですが、主に1.5~1.8mの樹高が主流となります。
葉張りは60cm前後をキープしている事が多く、既に多くの枝葉が充実している場合が多いです。
稀にポット苗や1mに満たない木も流通しておりますが、植えた後の成長ギャップが著しい為、小さなサイズのギンバイカを庭デザインに取り入れる事は少ないです。
シンボルツリーにも使いやすい自然樹形
周囲が開けた条件であれば、ギンバイカは洋風ナチュラルなシンボルツリーとしておすすめ出来ます。
オリーブと同じく自然に枝を伸ばした姿が美しいので、成長に制約がある場所には適しません。
ギンバイカのシンボルツリーは白壁のお住まいやレンガ調の壁とのマッチングが良く、メリハリの効いたおしゃれな眺めを作ってくれます。
ギンバイカが適応する環境と土質
ギンバイカは肥沃で水捌けの良い土壌を好み、やや乾燥気味の場所が適しています。
同じく地中海沿岸で栽培されるオリーブと似た土壌を好みますので、湿度が抜けない様な土への植栽は避けましょう。
陽当たりを好む典型的な暖地植物
ギンバイカはやはりオリーブと同じく典型的な陽樹であり、とにかく日当たりの良い場所を好みます。
剛健な庭木ですのである程度の日陰でも育ちますが、葉の密度や開花に影響が出ますのでご注意ください。
暖地の植物らしく寒風に弱い一面があり、植栽は基本的に関東以西が適応地域とされます。
まともに寒さを受けると葉が極端に傷む事があり、北風を避けられる場所を選んで植栽するのがおすすめです。
倒木と枝折れに注意
ギンバイカは充実した枝葉を持つ庭木ですので、上部の重量があります。
この為に根を張るまでは強風で倒れやすいという部分に注意しておきましょう。
またギンバイカは降雪の際、枝の間に積もった雪の重みで枝が折れるケースが多い木です。
木の質感から、フェイジョアと同じ位に枝が折れやすい庭木ですので、降雪前は枝を絞って縛り付けておく等の対策をしておきましょう。
ギンバイカの育て方
植え付け
植え付けに適した時期は暖かくなり始めた4月~5月が理想です。
水捌けの良い土壌にする為、赤玉土や腐葉土を混ぜて植え付けてあげましょう。
水やり
乾燥気味の環境を好むギンバイカですが、鉢植えやプランターの場合は乾燥したらたっぷり水を与えます。
庭植えのギンバイカについては普段は乾かし気味でも平気ですが、春の新芽展開や夏場の高温時には、夕方に水やりを行いましょう。
肥料
肥料については旺盛な成長を控えた3月頃に、堆肥や油かすを施す程度で大丈夫です。
増やし方
さし木によって増やす事が出来ます。
7月頃、その年に良く伸びた枝を10cm程度の長さでカットし、赤玉土と腐葉土が入った鉢に挿しておく事で発根します。
種まきでも増やす事が可能で、熟した果実から種を取り出して乾燥しない様に保管し、春(3月)以降に撒く事で発芽が期待できます。
ギンバイカの剪定方法
ギンバイカは花後にすぐ翌年の花芽を作り始める為、剪定の適期は花後すぐ、8月までに行うのが理想です。
ギンバイカは剪定を施しても1年ですらっとした徒長枝を全体から発生させます。
その徒長自体を鑑賞用の姿として捉え、花が咲いた後すぐに徒長枝を外して樹姿をリセットするローテーションがお勧めです。
太く長く伸びた枝でも折れやすい性質がありますので、無理な支えなどはせず、剪定時には幹がうっすら見える程度まで軽くしてあげると良いでしょう。
ギンバイカは成長により自然に樹形を整えるタイプの庭木ですので、サイズを気にしない場合は放任する事も可能ですが、この場合は花後に軽い刈り込み程度の剪定を行っておくのが良いでしょう。
突出して伸びる徒長枝については花も付きにくい為、迷わず枝元から取り除いておきましょう。
注意したい病気・害虫
ギンバイカは非常に剛健な庭木であり、主だった病気・害虫が見られないのが特徴です。
ハーブ特有の芳香によってこれらを寄せ付けない為か、病虫害の心配がいらないのは大きなメリットと言えます。
ただし枝が密生している為、人が傍に寄らない場所ですと、夏に蜂の巣を作られる可能性はあります。
カシやコニファーと共通しており、これにはやや注意しておきましょう。
まとめ
以上、ギンバイカの特徴や植栽実例の解説でしたが、如何でしたでしょうか。
常緑樹でありながら花期の長い花を楽しむ事ができ、何よりも小さくシャープな葉がお庭をおしゃれに見せてくれる庭木です。
シンボルツリーや目隠しの庭木、プランターや鉢植えまで、あらゆるシーンに溶け込んでくれるギンバイカの植栽を、是非ご検討してみては如何でしょうか。
執筆者:新美雅之(新美園HP作成・作庭者)
庭木や庭デザインについて、作庭者の経験を活かして現実的に解説をするコンテンツを目指し、日々執筆しています。