造園や庭づくりで植栽されますコハウチワカエデはムクロジ科・カエデ属の落葉樹です。

この分類の中には多くのモミジ・カエデ類が含まれ、葉の切れ込みが深いものはモミジ、切れ込みが浅いものはカエデと呼ばれるのが通常となります。

コハウチワカエデはどんな木?

コハウチワカエデの葉

コハウチワカエデの葉

コハウチワカエデの葉は切れ込みが浅く、小さな手のひらの様な可愛らしい雰囲気があります。
イロハモミジなどは鋭利な葉が凛とした上品さを感じさせますが、コハウチワカエデの葉は丸みを帯びた優しいフォルムといった所でしょうか。

コハウチワカエデは放任しても5m前後の樹高に留まるおとなしいカエデであり、生育環境さえ良ければとても住宅向きの落葉樹と言えます。

シンプルな樹形が美しい

コハウチワカエデはその非常に繊細で上品な樹形から、ナチュラルガーデンのデザインにも取り入れられます。

コハウチワカエデの枝振り

コハウチワカエデの枝振り

枝が繊細、という事もございますが、枝葉の数そのものがとても少なく、上部へ枝が伸びてもなかなか太らない性質を持っています。

この為庭への植栽後の放任をしても樹形が柔らかな状態を保ち、美しい山間の風景を見せてくれます。

小さな手のひらの様な葉は密生せず、常に幹模様や枝模様が見られます。

 

お庭での生育傾向

カエデ類としては稀な生育の緩やかさであり、上手く根付けば非常にローメンテナンスな植木と言えます。

ですが忠実に山間に通ずる条件下でなければ元気に育ち続ける事は難しく、至らない条件は人の手で工夫して植栽をする必要があります。

山間の様な環境を作って植栽を

山間の様な環境を作って植栽を

もともとは山の高木の枝下で点々と自生する木ですので、コハウチワカエデは強い直射や強風にさらされる事に慣れれていません。

尚且つ自生する山の土は腐葉土を大量に含んでおりますので、それに近い土で植え付けを行う必要があります。

かといってじめじめとした土壌ではなく、山の緩やかな斜面に習う様に水捌けも良好でないといけません。
そして日光を避けるあまりに暗い日陰へ植えた場合も、うまく育たない事が見受けられます。

やはり枝元に注ぐ木漏れ日の様な環境が最良であるかと思われますが、お庭の中では中々作るのが難しい条件と言えます。

日当たり時間を軽減させる工夫

美しいコハウチワカエデの新緑

美しいコハウチワカエデの新緑

直射日光が当たる時間を1日の半分以下にする為に、建物東側などへの植栽も有効です。朝~昼前までのみ日光に当て、それ以降は南中時~西日までを完全に避ける事が出来ます。

もちろん四方を囲まれた中庭や坪庭への植栽も向いていますが、風通しを確保する為にも周囲は植木を少なく、空間を広く持たせる事が必要です。

 

コハウチワカエデの紅葉

コハウチワカエデの紅葉

コハウチワカエデの紅葉

コハウチワカエデの紅葉はとても美しいのですが、やはり根付き始めてからの方が色が美しくなる様な傾向があります。写真のコハウチワカエデは真西に植えられており夏場も西日を受けておりましたが、足下を徹底的に日陰になる様に工夫の上水遣りを欠かさない様にして成長させました。

 

コハウチワカエデにおすすめな植栽方法

シンボルツリーとして

住まいに寄り添うコハウチワカエデ

住まいに寄り添うコハウチワカエデ

健康に根付かせる工夫さえ行えば、その大人しい性質を活かして人が歩くアプローチの傍などへの植栽が可能です。

山の木の特性ですが、生育に伴い下枝をどんどん減らしていく為、人の背の高さまではほぼ幹だけの樹形が多いです。

この樹形を活かせばアプローチや玄関周りなど、シンボルツリーとしての植栽も可能です。

北側のシンボルツリーとしてのコハウチワカエデ

北側のシンボルツリーとしてのコハウチワカエデ

こちらも緩やかな生育特性を活かし、コハウチワカエデを玄関付近にシンボルツリーとして植栽した例となります。

枝葉の下を歩くイメージですと樹高もあり生育も旺盛なイロハモミジが向いておりますが、傍を歩く場所であれば成長の緩やかなコハウチワカエデを選択するのが良いでしょう。

ですが日照りの強い場所であればコハウチワカエデは避け、やはりイロハモミジ等の選択が宜しくなるかと思います。

小さなナチュラルガーデンにも

狭いナチュラルガーデンにもおすすめ

狭いナチュラルガーデンにもおすすめ

成長が遅く場所を取らないコハウチワカエデなら、アプローチ沿いの小さなナチュラルガーデンのキャストにもおすすめ出来ます。

他のカエデを歩行場所の近くに植えてしまうと、歩行の妨げにならない様に幾度も枝を切ってしまいがちになり、みるみる樹形が崩れます。

しかしコハウチワカエデなら写真の様な場所でもそのまま維持しやすく、最低限の剪定のみで育ってくれます。

 

コハウチワカエデの育て方

植え付けの時期

イロハモミジ等と同じく、コハウチワカエデの苗木は落葉している冬(12月~3月)に行います。

コハウチワカエデは通常、植栽時に樹形を整えて剪定部分に保護剤を塗布しておき、その後は自由に放任させます。

適した土質

植え付けに使う土は樹皮堆肥と腐葉土を混ぜ込み、保水性と水捌けを兼ね備える様にしましょう。

やはり山間らしい土質を維持したいものですので、冬季の休眠中に周囲を軽く掘って腐葉土を混ぜ込んで埋め戻すなどの処置も有効です。

植え付け直後は幹周囲のみに有効ですが、根付いてからは木から離れた場所へ同様の処置を行うと効果的です。

ナチュラルガーデンの場合は雑木類が多く植栽されておりますので、土壌の改良は庭木の位置に拘らずお庭の各所へ行うと良いでしょう。

水やり・肥料

強い日差しや乾燥に弱いコハウチワカエデは、庭木として落ち着くまでは乾燥状態を放置しない様に水やりを行う必要があります。

葉の萎れや日焼けを起こしやすいカエデでありますので、こうなる前に地面をよく観察しておきましょう。

乾燥を予め防ぐ対策も有効で、低木を植えたりバークチップなどのマルチングを地表に行う事もおすすめです。

肥料は寒肥として、根回りへ油かすや骨粉の有機質肥料を埋めてあげる様にしましょう。

剪定

コハウチワカエデは成長の緩やかさから、最も手の掛からないカエデと言えます。

剪定の時期は落葉時に行い、頭頂部付近や幹から直接伸びる徒長枝を取り除く事がメインの作業となります。

基本的には枝透かしや切り戻しも行わない方が無難です。

樹形を後で乱してくる内向き枝や絡み枝があれば元から取り除き、今ある枝葉が元気に育つ事を考えましょう。

枯れ枝の除去

コハウチワカエデは健康に育っていても枯れ枝がよく発生しますので、これは発見次第取り除いておく事が大切です。

枯れ枝の発生は大抵枝元など、生育に伴う現象ですが、まれに日光やその他事象により植えの方から枯れ枝が出る事があります。

その際はまだ葉の付いてる部分までをよく観察し、近い内に枯れる様な予想がされる場合は予め剪定で取り除いて保護剤を塗布します。

毛虫やテッポウムシに注意

カエデ類らしく、毛虫の被害を受けやすいのも注意です。

人を刺すイラガを始め、大量に発生するアメリカシロヒトリが発生する事もあります。

最も注意すべきはテッポウムシで、カミキリムシの成虫が幹に穴を開けて内部に産卵します。

コハウチワカエデの幹は穴を開けやすいのか、イロハモミジに並んでこの被害を受けやすい樹種になります。

せっかく育ったイロハモミジも短期間で枯れてしまう事があるので、カミキリムシが穴を開けた際に落ちる木くずが無いかどうか観察はしておきましょう。

 

コハウチワカエデのポイントまとめ

ここまでご紹介をしてまいりましたコハウチワカエデですが、庭木としておすすめ出来るポイントと注意したいポイントをまとめます。

おすすめなポイント

  • 成長の遅いカエデとして貴重な存在
  • 小さなサイズを維持しやすく、植える場所に困らない
  • 環境が合えば紅葉も美しい

注意したいポイント

  • 夏の陽射しに弱く暑さで枯れやすい
  • 環境を非常に選ぶ
  • 毛虫の害に注意が必要

如何でしたでしょうか。

成長も遅くメンテナンスも容易なカエデは貴重であり、環境さえ合えばコハウチワカエデは大変おすすめな庭木です。

シンボルツリーとしてはもちろん、ナチュラルガーデンの中の小高木としても美しい庭木ですので、木漏れ日の環境があるお庭でしたらコハウチワカエデを是非取り入れてみては如何でしょうか。

 

執筆者:新美雅之(新美園HP作成・作庭者)

執筆者:新美雅之庭木や庭デザインについて、作庭者の経験を活かして現実的に解説をするコンテンツを目指し、日々執筆しています。
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