常緑ヤマボウシと呼ばれる庭木の中に分類されるホンコンエンシスは、ミズキ科・ミズキ属の常緑樹です。
他の常緑種としてヒマラヤヤマボウシという木もありますが、庭木として扱われる「常緑ヤマボウシ」とはホンコンエンシスを指します。
常緑と申しましても寒さに弱い為、関東におきましても植栽場所によっては半分~全部の葉を落とす事があります。
この為、ホンコンエンシスについては予め「半常緑性」という位置付けとなります。
葉色が明るく黄緑~赤味までがやや入り混じった印象を受け、洋風のお住まいや庭に似合います。
樹姿そのものは植木屋の視点ですとハナミズキに似ており、剪定時もハナミズキの剪定と同じポイントが多く見られます。
目次
ホンコンエンシス(常緑ヤマボウシ)の基本データ
- 科名と属名 ミズキ科・ミズキ属(ヤマボウシ亜属)
- 学名 Cornus hongkongensis
- 分類 落葉広葉樹 小高木
- 原産地 中国南部他
- 開花期 5~7月
- 別名 常緑ヤマボウシ
常緑ヤマボウシ、常緑を意味するトキワヤマボウシとも呼ばれ、ヒマラヤヤマボウシと同じカテゴリーとされますが異なる木です。
ホンコンエンシスの原産地は中国であるのに対し、落葉のヤマボウシは日本固有種です。
作庭者から見ると「常緑ヤマボウシ(ホンコンエンシス)はこんな庭木」
近年ではすっかり人気の庭木として定着しつつあるホンコンエンシスですが、作庭者の目線から考えますと以下の様なポイントが挙げられます。
おすすめなポイント
- 洋風の葉色が美しく樹形も乱れにくい
- 花付きも良く長い間楽しめる
- 剪定によって維持しやすい
- 毛虫の害をほぼ受けない
注意するポイント
- 寒さで葉を半分~落とす半常緑性である
- 根張りが浅くて弱く、倒木に備えた風止めが必要
- 陽当たりを好む割に乾燥に弱い
それではこれらのポイントを交えながら、常緑ヤマボウシ(ホンコンエンシス)について解説をしてまいります。
ホンコンエンシス(常緑ヤマボウシ)の特徴
ホンコンエンシスは光沢のある葉や、数多く咲く花が見所です。
きらびやかな印象の葉は夏の日差しにも強い為、暑い時期も美しい景観を損なわない頼れる庭木です。
そんなホンコンエンシスの特徴を見てまいりましょう。
光沢が美しい葉
ホンコンエンシスの葉は光沢感があり、色彩も美しいのが特徴です。
常緑ヤマボウシと呼ばれるだけあり、ヤマボウシの葉に光沢をプラスした様な印象です。
緑と黄緑のグラデーションがあり、季節によっては赤色がほんのりと浮かび上がります。
この光沢感が洋風の庭やお住まいと非常に良く似合いますので、近年では積極的に植栽されている庭木です。
長く楽しめるホンコンエンシスの花
ヤマボウシと呼称される様に、花はヤマボウシと非常に良く似ております。
花びらとは異なる総苞片が花弁に見立てられており、存在感のある大きさと言えます。
可憐ながら野趣も感じられる常緑ヤマボウシの花は、鮮やかな葉と共演する様が美しいです。
開花は6月頃で、花持ちが良く、長い間花を見られるのも魅力です。
花付きの良い品種「月光」
月光という品種は花付きが大変に良く、数多くの花を咲かせるのが人気です。
ホンコンエンシスは植栽から年数を経て落ち着くと、花数も多くなる傾向があります。もちろん陽当たりや根の健全な生育が必要ですが、多くの花を付けたホンコンエンシスの姿は圧巻です。
ホンコンエンシスの紅葉
ホンコンエンシスは寒さに弱く、半分程度の葉が落葉する事は珍しくありません。
その落葉の前に葉が美しい色付きを見せますので、これもまた魅力の一つではないかと思います。
写真は全体的に寒さを受けたホンコンエンシスですので、先端部まで赤く染まっています。
庭へ植栽されて落ち着いたホンコンエンシスの場合は先端の葉は緑のまま、懐の葉だけが真っ赤に染まる事があり、この色のコントラストは特に美しく見えます。
落葉樹のヤマボウシとの違い
常緑ヤマボウシと呼ばれるホンコンエンシスですが、私見的に落葉のヤマボウシと似ているのは花くらいであるかと思っています。
株立ち樹形のホンコンエンシスであれば何となくヤマボウシと似ているのかもしれませんが、植栽や剪定に携わりながら考察をしておりますと、ホンコンエンシスの株立ちは成長の仕方や枝振りから「ハナミズキの寄せ植え」の様な印象を受けます。
この様に花以外は容姿の異なる落葉ヤマボウシですが、こちらも多くの魅力があります。
詳しいご紹介はヤマボウシの特徴と植栽実例解説をご参考下さいませ。
ホンコンエンシスの樹形:単幹(一本幹)と株立ち
ホンコンエンシスは複数本の幹で構成される株立ちと、1本幹で成り立つ単幹物が同じ程度流通しています。
単幹を寄せて株立ちに見せる「寄せ株物」も多くありますが、生育面を考えますと元は1本である本株立ち物がお勧めではあります。
単幹物のホンコンエンシス
ホンコンエンシスの場合、単幹物を選んでも寂しさや物足りなさは感じられないかと思います。
1本幹から左右対称に綺麗に出来上がっている樹形が多く、美しいオーナメントの様な雰囲気も感じられます。
剪定によって樹形を整えやすく、定期的に剪定を施せばいつも整った形を見せてくれます。
株立ち樹形のホンコンエンシス
一方で株立ち樹形のホンコンエンシスは繊細な印象もあり、必然的に木そのものの幅が広くなってまいります。
しかし枝が混み過ぎない様に透かし剪定を施していれば圧迫感も無く上品な佇まいとなり、玄関先への大型シンボルツリーとして植栽するとよく似合います。
生育に伴って葉数も多くなりますので、常に向こう側が透けて見える様に仕立てておくと美しく維持が出来ます。
お庭での生育傾向
ホンコンエンシスは典型的な直幹樹であり、真っ直ぐ上に伸びた幹が骨格となります。
その幹を中心に枝葉が全方向に展開するので、常に整った樹形を見せてくれる庭木です。
陽当たりを好む典型的な陽樹
常緑ヤマボウシは日当たりの良い場所を好み、暗い部分や下部の枝は枯れてしまう傾向が強いです。
この為植栽をする場合は周囲に遮るものが無い、明るい場所を選ぶのが良いでしょう。
植栽時は小さかった葉も、根付くにつれて葉が大きくなる傾向があります。
特に半日陰などでの植栽は顕著に表れ、自らに陰をつくってしまう事があります。
やや早めの成長力を想定しましょう
毎年徒長する走り枝が発生する傾向があり、伸びるのは意外と早いです。
ですが後述の剪定にて切り戻しをしやすい樹形をしておりますので、枝は自然に整理する事が可能です。
強い根張りが出来ない事に注意
ホンコンエンシスは木の上部が重い割に根が柔らかい特性があり、これは強風で倒れる原因ともなります。
倒れないにしましても上部が強風で揺らされることによって細かい根が切れる事があります。
大きいサイズの常緑ヤマボウシを植える際は風留め処置などを施しておく事が必須です。
陽樹の割に乾燥に弱い面にも注意
ホンコンエンシスは日当たりを好む陽樹である割に、乾燥には弱い特性があります。
強い陽当たりを好む木であれば耐乾燥性も備える事が多いのですが、ホンコンエンシスの場合は水遣り等を行う必要があります。
特に新しい葉が出て成長している季節は、乾燥によって新葉が萎れてしまう事もある程です。
乾燥に目を配るか、根元へ低木やグランドカバーの植栽を施して、乾燥を遅らせる工夫をする事も効果的です。
半落葉を想定する必要も
ホンコンエンシスは寒さに非常に弱く、北風が直接吹き付ける事が無くても葉を減らします。
残った葉も黄ばんだり赤みがかっていたりする事が多く、暖かい時期とは印象が大きく異なってくる点を留意する必要があります。
葉が多く落ちてしまっても、翌春には花と共に新しい葉が展開し始めて元に戻ります。
落葉樹の様に新しく葉が入れ替わる様なイメージとなります。
常緑ヤマボウシは目隠し用の庭木に向いているか
ホンコンエンシス(常緑ヤマボウシ)は先述の様に冬季に葉を多く落とす為、重要な目隠しポイントとしての植栽には不向きかもしれません。
おすすめなのは「なんとなく窓の存在をぼかす」程度の目隠しであり、そうでない場合は他の庭木を検討されるのが良いかと思います。
また、ホンコンエンシスは典型的な日向向きの陽樹ですので、目隠し用の木にありがちな遮蔽物に近付ける植栽には向きません。
壁がある方向の枝はすぐに枯れてきますので、葉が片側にしか無い樹形となります。
目隠しの植栽としてホンコンエンシスを検討される場合はご注意ください。
ホンコンエンシス(常緑ヤマボウシ)をシンボルツリーに
ホンコンエンシスが最も多く植栽されるケースはシンボルツリーではないでしょうか。
背も自然に高くなる植木ですので、単一植栽で目立たせるにはシンボルツリーが適していると思います。
一本植えでも葉に様々な色味がある事から、十分に賑やかな風景を演出してくれます。
先述の様に花も咲かせてくれる事から、玄関周りを彩るシンボルツリーとしてもお勧め出来ます。
こちらは単一植えとは異なり、シンボルツリーとしながらも周囲を小庭に仕立てています。
ホンコンエンシスは単独でも十分に存在感がありますが、この様に他種の植物と組み合わせて魅力を引き出す事も可能です。
華やかで花も咲くという常緑樹は多くございませんので、洋風のシンボルツリーを検討される際は是非取り入れたい庭木ではないでしょうか。
こちらもシンボルツリーとしてホンコンエンシスを植栽しておりますが、周囲はスモールガーデン、いわゆる小さな洋風の庭としてデザインしております。
ホンコンエンシスは葉の色が賑やかなシンボルツリーである事から、カラーリーフの低木とも良くマッチします。
また、ホンコンエンシスは冬季に葉の数が減る事が多い為、この時期に寂しさを感じさせない為にも、周囲を他種の庭木や植物でデザインしておく事が有効となります。
こちらは白い外壁にホンコンエンシスを合わせ、シンボルツリーとして植栽しています。
ホンコンエンシスの持つ色彩豊かな葉は白い壁にも良く映え、季節による微妙な葉色の変化も美しく浮き上がって見えてきます。
特におすすめなのは北風の当たりにくい南側への植栽ですが、冬季の半落葉が許容できれば明るい北側~東側へのシンボルツリーにしても問題は無いでしょう。
尚、ホンコンエンシスに限らずシンボルツリーをお選びされている方は、シンボルツリーの選び方とおすすめ樹種についてのページもご参考いただければと思います。
ホンコンエンシス(常緑ヤマボウシ)の育て方
適した環境
ホンコンエンシス(常緑ヤマボウシ)は陽当たりを好みますが、夏に地面が高温になる場所、冬季に北風が吹きつける場所は避けましょう。
小さな木を植える場合は気候の影響を大きく植えやすいので、植え付けの場所は慎重に選びましょう。
植え付け
水捌けの良い土壌にする為、腐葉土や赤玉土、樹皮堆肥を庭土に混ぜ込みます。
乾燥に弱い性質を考慮し、根鉢の表面はやや地面より低くなる位の深さが望ましいです。
根が柔らかく強風で木が揺れると傷みやすい為、これを防ぐ風止め処置が必要です。
水やり
ホンコンエンシス(常緑ヤマボウシ)は乾燥に弱いという事を認識しましょう。
特に新芽が展開している時期、乾燥が少し続くだけで全体の葉が萎れてしまう事があります。
ひどく萎れてしまっても大抵は水やりによって回復しますが、庭木として定着するまで、乾燥時の水やりが必要だと思っておきましょう。
肥料
ホンコンエンシスは特に肥料を必要とはしませんが、花を多く咲かせた後に肥料を撒いてあげるのが良いでしょう。
寒さに備えて樹勢を上げておく面でも有効です。
その他は他種庭木と同様に、寒肥として冬に周囲へ肥料を埋めてあげましょう。
病気・害虫
ホンコンエンシス(常緑ヤマボウシ)は基本的に病虫害には遭いにくいですが、あまりにも風通しの悪い場所への植栽や、剪定せず放置した木であればこれらを誘発します。
稀にヤマボウシやハナミズキと同じくうどん粉病を発症したり、葉に病斑が現れたりします。
風通しの確保だけは意識して、幹周りへも空気が循環する樹姿にしていましょう。
毛虫類の害はほぼ受けないのが特徴であり、お客様へおすすめ出来る最大のメリットでもあります。
ホンコンエンシスの剪定方法
先述の様に常緑ヤマボウシの伸び方はハナミズキと良く似ており、洋風の植木としては整姿がしやすいと言えます。
形が短期間で一気に乱れる事が無く、しかもその際でも切り戻し剪定で樹形を整えやすい特徴があります。
伸びてしまったホンコンエンシスも、切り戻しで綺麗に戻す
ハナミズキは単幹ものが主流ですが、常緑ヤマボウシは株立ちものも多く流通しています。
ですのでハナミズキよりは剪定の手数が掛かりますが、一度伸びた部分自体を綺麗に外す事ができ、剪定を終えた姿を自然に見せる事が出来ます。
常緑ヤマボウシは横方向へ繰り返し枝分かれをする傾向があります。
枝分かれの中に必ずよく伸びる一枝がありますので、それを分岐点より綺麗に外す剪定が一般的です。
同時に、外側ではなく内側へ向かう枝は幹から外してしまう事をお勧めします。
常緑ヤマボウシは内側で密生した枝を枯らしやすい為、予め外しておく事で幹周りへも日光を届かせる事が出来ます。
まとめ
常緑ヤマボウシ(ホンコンエンシス)について解説をしてまいりましたが、如何でしたでしょうか。
常緑樹で洋風、花も咲き、シンボルツリーとしても活躍出来る庭木は限られている中で、ホンコンエンシスともいえる樹種です。
陽当たりが良く、風が強すぎない場所であれば、是非庭木やシンボルツリーとして常緑ヤマボウシ(ホンコンエンシス)の植栽をご検討されてみては如何でしょうか。
執筆者:新美雅之(新美園HP作成・作庭者)
庭木や庭デザインについて、作庭者の経験を活かして現実的に解説をするコンテンツを目指し、日々執筆しています。