ご新築されたF様邸は玄関に地窓が設けられており、その先には長方形の坪庭スペースが設けられていました。
この坪庭スペースの為に建物の形をコの字型に区切っており、玄関と坪庭の融合を設計段階より大切に考えていらっしゃた事が解ります。
お住まい竣工時には手付けずであったこの坪庭について弊社にご相談をいただき、私の方でこのスペースを最大限に活かせる様にデザインを施しました。
玄関を入ると正面地窓から坪庭が目に入ります。
腰下だけを眺める構造でありますので、坪庭のデザインも足下を重点的に考えております。
自然石の水盤は大型ながらも存在感は薄めに見せる工夫をしています。
据え付け時に底部を地面に埋め込む様にしており、これが水盤に控えめな印象を与えています。
小さくても存在感を感じる庭石は、玄関からの眺めを意識した向きと角度を付けており、凛とした静けさを演出しています。
ドライモスのエリアと砂利敷きのコントラストが、整然とした空気を感じさせます。
この坪庭部はルーフ下に位置する為、屋内とほぼ変わらない環境です。
その為植物は育てる事が出来ませんので、室内坪庭の技法を使って施工をしています。
庭石や砂利については屋内でも全く問題なく使用できるのでデザインに取り込めますが、植物や苔については人工植物やドライモスをレイアウトしています。
雨の当たらない場所であればほとんどの室内で造形を行う事ができ、室内坪庭は実に身近に取り入れる事が出来るのです。
とても小さな場所ですが、坪庭としての景観を見せる為、曲がりや高低差は通常よりも強めに表現しています。
この様な条件下での庭づくりであれば、一方向からの眺めに全てが掛かっていますので、デザインを存分に感じられる様なレイアウトとするのが良いでしょう。
玄関の照明を落とせば坪庭側のライトアップが引き立てられて、より鮮明に庭の様子が浮かび上がります。
太陽光に照らされた屋外空間の様に自然な景観を楽しむ事ができ、この坪庭が完全なメンテナンスフリーな室内坪庭である事を忘れてしまう程です。
左手に見えるのは坪庭へ立ち入る為の通用口であり、照明のメンテナンスや掃除の際に使われます。
出入り口から眺める坪庭ですが、本来ならばこちら側も是非鑑賞していただきたいアングルです。
枯山水の要となる流れ模様は水盤から溢れた水の行方を表現しています。
滝や川を模したデザインとはやや異なり、静かに水が流れていく様なイメージです。
流れの左右を庭石で挟み込めば動きの強い流れを表現できますが、この様に苔エリアのエッジだけで区切る事で、緩やかで静かな流れを表す事が出来ます。
流れを左右に振る事で、玄関から眺めると流れは前後に揺れて見えます。
この様に、どんなに小さな坪庭であっても小さな工夫は確実に景観効果を表しますので、ちょっとした空間を活かしたいとお考えの方は是非ご参考されてみては如何でしょうか。