ご新築されたY様邸には正方形の庭がありましたが、竣工時はコンクリート片が多く余分な土も山にされた状態でありました。
一見しますと土質は良くないのですが深部の水捌けは良く、水溜りは出来にくい庭でした。
正方形の庭はデザインも難儀しやすいものですが、今回はお住まいの中より眺める事をメインとした和風デザインを軸に、面積的にも「坪庭」に近い手法で造園を行わせていただく事となりました。
今回の和庭づくりにおいては、メンテナンスの必要が無い砂利空間を総面積に対して半分確保し、鬱蒼と見えないデザインを心掛けています。
植栽エリアはデザインによって自然に区分けを行い、残された空間は常に明るく風通しも確保される事となります。
庭のデザインにおいて「ゾーニング」という言葉がありますが、これは古くから和庭づくりにおいても重視されてきた手法であり、デザインを一点または片側に凝縮させた造園例は多く見る事が出来ます。
今回の庭づくりも「坪庭」に通ずるデザインを取り入れており、石材添景物(燈篭や手水鉢)、枯山水、そして風情を感じる植栽を凝縮させた形と言えます。
まず全景を一体化させる役割として、イロハモミジの単幹が重要な役目を担っています。
足下のデザインは場所ごとに変化をしていきますが、イロハモミジの枝葉がそれらを頭上でまとめてくれます。
低い場所のデザインは私の手で組んでいく事は出来ますが、頭上の景観は庭木の美しさに委ねる他にありません。
雑木の庭でも景観的に重要である「枝葉の頭上展開」ですが、この様に和庭でも非常に効果的である事が割ります。
織部燈篭はナリヒラヒイラギナンテンで見え隠れさせて存在感を抑え、手水鉢は低めにセットしています。
手水鉢の前に立つ前石は諏訪スリ鉄平石、そこまでの渡りは甲州鞍馬飛石を使用していますが、どちらの飛び石も自然な厚みを持ち、据え付けられた姿自体が「景観」として機能します。
和庭において1セットとして扱われる事も多い燈篭と手水鉢は、静かに呼応し合うかの様な雰囲気を見せます。
和風の庭で需要視されるポイントとして、どんなに細かい箇所でも高低差を付ける、という事が挙げられます。
これは燈篭と手水鉢の関係性に限らず、隣り合う庭石同士や植栽についても同様で、この高低差がある事により奥深さと立体感が生まれてくるものです。
手前には軽やかなイロハモミジを植栽しておりますが、庭の最奥へはソヨゴを植栽しており、この緑の濃さが和庭の景を締めてくれます。
特に遠くから庭を眺めた際にその効果は大きく感じられ、手前にある全ての素材の存在感が増します。
近年では背景の引き締めとしてよく使用するソヨゴですが、一昔前であればシラカシやアラカシ、ヤマモモなどがその役割を担っていました。
現在ではその成長力と大きさを住宅地で維持する事が難しく、ソヨゴの様にメンテナンス性も良い庭木へと移り変わってきています。
鳥海石で構成された流れの中に佇む手水鉢は、禅の言葉である「吾唯足知」の文字が刻まれる、知足型と呼ばれる形式です。
この手水鉢は景観面でも風情があり厚みもあるので、小さなサイズでも存在感が大きいというメリットがあります。
ですので遠くから眺めた場合でもしっかりとした存在感が得られ、特に小型のサイズもお勧め出来ます。
現在の造園では手水鉢もこちらの1.3尺(幅39cm)と小振りなサイズを使用する事が多く、小さな面積の和庭づくりで重宝します。
和風の庭で使われる技法として枯山水が挙げられますが、これは実に様々な場所で表現する事が可能です。
こちらのお庭では手水鉢が収まる「海」をそのまま流れとして庭の奥まで繋げており、奥から手前に向かって水が流れて見える様に、大磯砂利によって表現しています。
枯流れについては表現上も自由度が高く、ふとした場所や、植栽が育ちにくい場所で景の主役を担う事もあります。
枯山水は限られた領域や狭い庭でも有効な表現手段であり、デザイン上でも重要な位置付けとなりますが、実に手軽に和庭へ取り入れる事が可能です。
最後の工程として設置した、ラカンマキの生垣です。
駐車場側から眺める和庭も美しいものですが、やはり防犯面と目隠し効果を優先させ、最低限の高さで生垣を設置しております。
ラカンマキはイヌマキよりもかなり葉が小さく高密度であり、規則的に刈り込みを続けていればまさしく壁状の生垣として仕立てる事が出来ます。
樹高1.5m前後の苗木であっても幹が曲がってしまう事が多く、自立出来るまではしっかりとした骨組みに結束する必要があります。
生育が大人しく枝葉密度が高くなるのに年数も掛かる為、それまで目立つ骨組みはしっかりとした仕立てにしておきたいものです。
ゆくゆくはラカンマキが成長し、直線の効いた美しい緑の壁となる事でしょう。