K様邸は建築家の方による意匠が美しいデザイン住宅であり、外界と上手く遮断された「坪庭スペース」が存在していました。
もちろんこのスペースは、外からの目線を気にせずに窓を開けられる為に作られておりましたが、こちらを木々が息づくナチュラルな景観にする事が、建築計画時から盛り込まれておりました。
お住まいから雑木の雰囲気を楽しめる、これは近年流行の作庭カテゴリであります「雑木の庭」という事になりますが、これを中庭で表現するべくご依頼を戴きました。
お住まいの中から最も視界に入る雑木として、デッキ前にイロハモミジの単幹樹形を植栽しています。
雑木の庭をデザインする場合は「庭木の位置」を厳密に取り決めるよりも、「展開した枝葉の領域感」を考えておきます。
つまり庭木の根の位置というのはさほど重要ではなく、枝葉がどちらの方向へ向いているか、雑木同士の枝葉にどの程度の間隔が生まれるのか、
更に将来的にその空間は保つべきか混在させるべきか、これもデザインとして取り込む必要があります。
雑木の庭の場合、庭木として植えられた樹木はその姿を「保つ」のではなく、自然な姿に成長させるという大前提がありますので、将来的に形成されていく空間美を意識してデザインするのが良いでしょう。
イロハモミジの単幹樹形は方向性を持った形が取り入れやすく、今回は限られたスペースを広く残す為になるべく壁に寄せて植栽しています。
曲がり樹形を大いに活かしている為、お住まいから眺めても斜めに立ち上がる幹や枝葉が美しく視界に入る様になります。
これが仮に左右均等に近い株立ち樹形の雑木となりますと、お住まいから木の気配が感じにくく、枝葉が外壁を擦ってしまうという事にもなるのです。
壁際から生えたモミジがそのまま傾いで育ってきたかの様に。
雑木の庭づくりでは「木の存在そのもの」が自然に見えなければなりません。
外壁沿いから自然に生えて育ってきたかの様な雑木類は、イロハモミジの他にアオダモやセイヨウカマツカを林に見立ててレイアウトしています。
広い場所へ雑木の庭をデザインする場合よりも、中庭・坪庭においては採光や通風を阻害しない「整備された林床」の様な空間を確保する事が大切です。
ひとたび枝葉が混んでしまえば地表に光が届かなくなり、お住まいに風も入りにくくなってしまいます。
雑木の庭づくりでこの様な失敗が起こる事は意外に多く、まずは樹木の数も必要最低限に設定し、枝葉の展開具合も予測しておくのが良いでしょう。
具体的には写真の様に「雑木を植えないエリア」を明確に設定し、ここを光と風の通り道とします。
空間を作れば自然にそこが通路となり、ここから落葉拾いや剪定メンテナンスを行いやすくもなるものです。
採光や通風を妨げにくい雑木を選ぶ時は、
・葉数が少ない
・葉が小さい
・下枝が少ない
・成長しても幹が細い
といった基準が役に立ってきます。
もちろん樹種に拘らず樹形選びの過程でこれら条件を満たす事も出来ますので、雑木の庭づくりにおいてはしっかりとした樹木の吟味が大切と言えるでしょう。
枝葉が少し多めなイロハモミジは手前にレイアウトし、予め坪庭への通風用として空けられた部分はアオダモを寄せています。
特に枝葉が少ない雑木類であるアオダモは、外壁に思い切り寄せても枝葉が干渉しにくく、写真の様に通風口の機能を阻害する事がありません。
枝の細さも相まって小さな葉が空中を漂っている様にも見え、ある程度の本数を寄せ植えしても圧迫感を感じさせないのがお解りいただけると思います。
対して地上付近は常緑性低木をふんだんに植栽しており、緑あふれる様な雰囲気を作り出しています。
葉が美しいアオキは特に陰地での発色が良く、成長も健全に行われます。
実際に里山や竹林の下で自生している姿がよく見られ、自然に近い姿になる事が期待できます。
今回は雑木の坪庭を特に明るく見せる為に斑入り種のアオキを選択しておりますが、より自然に近いイメージで作庭を行う際は緑葉のシンプルなアオキを植栽するのも良いでしょう。
低木類はもちろん常緑樹だけではなく、小花や実も美しいウグイスカグラ等もナチュラルにレイアウトをしております。
上で紹介のアオキを始めセンリョウや沈丁花、シャクナゲ等、古くは和庭づくりで使われてきた樹種も、雑木の庭づくりで大いに活躍してくれます。
写真はシャリンバイであり、これは強い日差しの日向や乾燥にも耐える傍ら、日陰地で育つとこの様な美しい光沢を見せてくれます。
ヒイラギ類も耐陰性を持っておりますが、ナチュラルな庭づくりではナリヒラヒイラギナンテン(マホニアコンフューサ)がおすすめとなります。
いずれにしましても雑木の庭では低木類も自然に見せたい為、これらもある程度の成長を見込んでおく必要があります。
特に低木類は「低く維持しなければならない」といった誤解を持たれやすく、無理な樹高維持は樹形を短期間で崩してしまいます。
低木類であっても樹高は60cm~1m程は許容出来るレイアウトを行っておき、適宜枝透かしによって自然な美しい存在として見せたい物です。
これは地面付近の風通しを良好に保つ事にも繋がり、病虫害抑制の為にも有効と言えるでしょう。
住宅造園規模での樹高の定義としては、
高木:背の高い木
中木:人の背丈ほどの木
低木:膝丈程の木
といった分け方をする事が多いものです。
雑木の庭づくりにおいてはこの「高木」と「中木」の組み合わせが非常に大切なポイントであり、これが木々を自然な姿に見せられるかどうかの鍵となります。
林や里山の中では多くの木々が生きていますが、よく観察をすれば様々な樹種が付かず離れずで共生している事が解ります。
大きな木は成長過程で下から枝を枯らしていく事で下部は幹だけになり、枝葉は高い位置のみ展開します。
その足元では少し背の低い木々が育っており、高い木の幹に寄り添う様に、比較的低い位置へ枝葉を展開させます。
この様な風景を庭づくりで表現する事で、木々が自然の中で共生をする様な姿を楽しむ事が出来ます。
大切なのは中木として扱う雑木の樹種であり、単純に高木の成長過程である木を中木扱いする事は避けましょう。
あくまでも最終樹高も低めで成長も緩やかな木を選びませんと、当初のレイアウトも全て無駄となってしまい、手に負えない林の様になってしまう恐れもあります。
暖かい季節は雑木の緑が溢れる坪庭も、冬季は落葉が起こって木々の枝模様が美しく浮かび上がります。
雑木と言えば株立ち樹形を連想される方も多いかもしれませんが、実際にナチュラル感を感じられるのは単幹や双幹といった、幹の本数が少ない植木です。
幹の本数が少ない植木は根も小さく作られており、これらは比較的容易に「寄せ植え」を行う事が出来ます。
この寄せ植えをランダムに散らす事によって自然に近い樹木レイアウトとなり、林の様な美しい風景を作り出せます。
このレイアウトは葉の落ちた冬季によく解りやすく、バランスよく配された幹は空間を美しく充実させます。
逆に幹数が多い株立ち樹形の木を間隔を空けて植栽していた場合は、この様な林に似た風景を作る事は出来ません。
落葉期は光を通しながらも寂しく見せず、幹自体を絵の様に楽しめる、雑木の庭にはこんな冬の楽しみ方もあるものです。
この様に雑木の庭づくりは例え面積が小さくてもデザインを行う事は可能であり、留意すべきポイントをしっかり押さえておく事で、生活に寄り添う様な自然風景を作り出す事が出来ます。
小さな空間に自然な風景を作りたい、そんなご希望にお応え致しておりますので、是非ご相談をいただければと思います。