H様邸はご新築時にアプローチの設置をされておらず、植栽も通路もない状況でした。
弊社事例をご参考とされたH様は、飾り気の無い自然な植栽とアプローチをご希望されており、小さな植物はご自身で育てられたいとのご意向をお持ちでした。
そこで今回は私の方で景観の軸となる雑木や低木類を植栽し、歩きやすく見た目も優しいアプローチを整備する事となりました。
土だけだった玄関前の空間は、雑木の植栽とアプローチの整備によってナチュラルな前庭となりました。
雑木の中でもとりわけ存在感のある樹種としてイロハモミジが挙げられ、イロハモミジは樹形によって表情が大きく変わる所も魅力です。
これはその場に合った雰囲気の木を選べるという事でもあり、イロハモミジの庭はなぜかしっくり来る、という事が多いのも頷けます。
こちらのイロハモミジは道路から見てシンボルツリーとして認識できるボリューム持ち、尚且つ玄関アプローチ側へ自然に傾いた様な植栽が出来る樹形を選んでいます。
植栽は三角構図でイロハモミジ、アオダモ、最奥のソヨゴへと続き、それぞれがしっかり遠近感を持って視界に入るのがお解りいただけると思います。
雑木の植栽で重要視されるのは自然なレイアウト、次いで個々の表情や樹勢と言えます。
人為的に仕立てられた樹形とは異なり、雑木はそれぞれ非常に個体差のある樹形をありのままに楽しむものと思います。
雑木の庭ではこの個性的な樹形が最も自然で美しく見える様な向き・角度を意識して植栽し、複数の木々が共演して一つの景観を作り出す様に意識します。
最たる例がこの様なアーチ状に展開する枝葉の景観であり、山間の様な情景を身近に取り入れる事が出来ます。
イロハモミジを重ねる事も出来ますが、こちらでは片方をアオダモとしており、これは採光が少なくなってしまう事やメンテナンスの負担を軽減させる意図があります。
雑木それぞれ成長速度やメンテナンスの必要頻度が異なりますので、雑木を使って景観を作る際は植栽後の動きを総合的に判断して計画を立てる事が大切です。
近年非常に人気の高いアオダモは、その枝葉の少なさとローメンテナンスな特性が魅力です。
しかし葉を落とした落葉期は非常に存在感が薄くなり、これを単純に補うには本数を多く用いられる事もあります。
決して安価ではないアオダモの木を複数本植栽する事は最良とは言えず、自然味を楽しむ雑木の庭であればよりナチュラルな景観を作りたいものです。
山間では高木の足元で中低木が生育している様に、これと同じ様な寄せ植えを庭の中で再現する方法もあります。
特に下枝の少ないアオダモはこの植栽手法を行うに向いており、こちらでは枝の無いアオダモの下部をアロニアの繊細な幹が被る様に寄せ植えしています。
紅葉期の葉色もアオダモとアロニアでは明確に異なる色付きを見せ、その組み合わせはまさしく自然風景を切り取ったかの様な美しさを見せます。
奥に植栽された常緑雑木とも言えるソヨゴ、こちらの足元へは同じく常緑性であるサルココッカを添えており、柔らかな味わいを見せる自然石をレイアウトしています。
近年は割石などシャープ・モダンな印象のマテリアルが好まれますが、やはり庭石がもたらすしっとりとした自然味は代え難い風合いと言えるでしょう。
もともと雑木と石は自然に共存している事も多くあり、山を歩かれる方であればよく目にする風景だと思います。
住宅においては多くの低木類を用いて賑やかな植栽デザインを作る事も多いですが、高木・低木・少量の石、これだけでもシンプルな自然風景を楽しむ事が出来る訳です。
玄関までのアプローチに使用したマテリアルはコンクリート枕木で、雑木類との相性はとても良いものです。
コンクリート枕木と呼ばれるマテリアルは、正しくは枕木風コンクリート平板という位置付けであり、文字通り枕木を模して作られたコンクリート平板です。
よりリアルさを追求したコンクリート枕木は、木目が細かく立体的に刻んであったり表面が波打っていたりするのですが、毎日歩く玄関アプローチの場合はリアルさよりも歩行の安全性を重要視したいものです。
こちらの様なコンクリート枕木であれば優しい風合いでも表面はフラットで、雨の日でも安全に歩く事が出来る点で優れています。
コンクリート枕木であれば腐食が起こらない事はもちろんコケが生えて滑りやすくなる事も無く、フラットな仕上がりが実現出来ます。
今回の庭作りでは高木を3本、低木を数本、そして小さな自然石を5石程度、必要最低限の数でナチュラルな景観を作っています。
土面のままとなっている部分はお客様ご自身で小さな植物を植えたりグランドカバープランツを育てるなど、可能性は無限大と言えます。
自然風景の骨格さえ整えれば、小さな植物の繁茂が後々素晴らしい庭に見せてくれるもので、これは作庭直後に表現出来るものでもありません。
植物は自然に成長して繁茂した姿が最も美しく、特にナチュラルガーデンや雑木の庭というカテゴリでは、植栽直後の姿を維持する事は目的となりません。
今後より自然な庭になっていく事に期待出来る、その骨格を整えるのが雑木の庭作りと言えるのではないでしょうか。