M様邸は建物周囲を完全に砂利敷きによって仕上げられており、その一角でプラスチック層を置いて池として錦鯉を楽しまれていらっしゃいました。

造園施工前の様子

造園施工前の様子

御相談へお伺い致しました際の写真ですが、該当箇所は隣家も近く陽当たりも少ない、面積も小さく形も変則的なスペースです。

果たしてこの場所で池のある和風の小庭を作る事が可能であるかどうかに先立ち、まずプライベート感を確保する為の目隠し対策も課題となりました。

今回はこちらの、庭にするとは予想もし難い場所を心安らぐ和風坪庭にする、難しく作り甲斐もあるご依頼を戴きました。

プラスチック製の池を庭の完成GLに合わせて埋め込み

プラスチック製の池を地面へ埋め込む

プラスチック製の池を地面へ埋め込む

まず今回の和庭の主役となるプラスチック製の池を地面へ埋め込みます。
池は元々地面に埋める様に設計された製品ですが、大切なのは庭が出来上がった際の地面の高さに合わせておく事、つまり完成GLを予めきちんと設定し、和庭の中で池がベストな高さで存在する様にします。

雨水用の排水管が設計箇所に埋設されており、これは45度の角度を付けてルートを変更、これにより無事予定の位置へ池を埋め込む事が出来ました。

池は水が入ると相応の重量が掛かり、底が柔らかい状態だと後々に傾きが生じる事があります。
仮設置後に池の底へはコンクリートを流し、水平等もしっかり測定しながら本設置を行います。

和庭の背景、目隠しとしての人工竹垣を施工

プライベート感と和庭らしさを取り入れる人工竹垣

プライベート感と和庭らしさを取り入れる人工竹垣

目隠し対策として施工した人工竹垣は高さ1.8m、距離3.6mというミディアムサイズながら、人工竹材は燻(いぶし)という黒~赤茶色のそれぞれ個体差のある仕様となっています。

この人工竹垣によってしっかりとした目隠し効果を得られる事はもちろん、和風の庭らしさを上品に引き出してくれるスクリーンとしての効果も絶大です。

今回の様に面積の広くない和庭や坪庭では、多くの植物を植える事は出来ません。
植物同士には適宜空間を取った植栽計画が大切であり、植物の植わっていない空間が各所に生まれる事になります。

背景に人工竹垣があればその空間は美しい竹垣を垣間見る事となり、和庭らしい上品な雰囲気に併せて適切に風が通り抜ける道を確保する事が出来る訳です。

完成した、池を楽しむ小さな庭

灯籠の向こうに池が佇む小さな和風の庭

灯籠の向こうに池が佇む小さな和風の庭

庭の主役は奥に見える池なのですが、居室窓前、つまりお住まいの中から見える狭い部分も大切なフォーカルポイントと言えます。

窓の前は奥行1m程しかありませんが、織部灯篭にコハウチワカエデを合わせた上品な景観を表現してみました。
灯籠の背景が人工竹垣となっている為、お住まいから眺めても灯篭のディテールが美しく浮かび上がり、笠の部分へコハウチワカエデの枝葉が寄り添う様なセッティングを施しています。

灯籠の本来の目的が道照らしである事を踏まえ、土間から続く甲州鞍馬飛石の始点を照らす様な向きで設置しています。

灯籠の周りには季節感のある低木や下草を入念にレイアウトしており、コハウチワカエデの足下へは沈丁花、ヤマアジサイ、ツワブキ、ギボウシといった和庭らしい植物を見る事が出来ます。

池を包み込む植栽のレイアウト

池を包み込む植栽のレイアウト

池の設置については「植栽の緑に囲まれた雰囲気」を出したい気持ちがあり、一見して多くの植栽が施された様に見えます。

しかし背の高い立派な庭木は背後のソヨゴ株立(樹高2.5m)のみであり、次いでオガタマノキ(樹高1.5m)、その他は膝丈~1mという小さな庭木によって構成しています。
多くの植物が植えられている様に見えても、実際は木々の間に適切な空間を設けてある訳です。

落葉期に庭木の葉が落ちてしまうと景観ギャップも大きくなってしまう為、今回の作庭では多くが常緑樹の植栽となっています。
低木についてはトベラ類やシャリンバイ、ビバーナム・ハリアナムといった耐陰性低木を多用しており、これらは日陰向きの低木として更に色艶を増していく事になります。

反対に日向向きの植物を植えてしまうと、上部の日光を求めて樹高を上げる速度も増してしまい、後々にすぐ景観が乱れてしまう事にもなりかねません。

落葉樹としては池の左手にクロモジを植栽しており、早春の黄花と秋の黄葉といった季節感を楽しめる様になっています。

 

低木と庭石組みによる構成

低木と庭石組みによる構成

庭の構成としては、まず植物のあるエリア(池を含む)と砂利エリア(歩行や排水)に二分しており、この境界として鳥海石による石組みを行っています。

もちろん庭石組みを行わずに苔山が独立している景も美しいものですが、お住まいの庭であれば管理の容易さ、後々の植え替え等も行いやすくする為に「区切り」をしっかりと付けておく事がおすすめです。

また庭石組みにはしっかりと目地モルタルを施しており、急な豪雨によって土が砂利面へ流出してしまう事も防げる様になっています。

植栽が充実して見えるのは下草類による恩恵もあり、コケだけではなく柔らかくある程度の草丈も有する下草類が、和庭へナチュラル感も加えてくれます。

使い分けた苔や下草類が植わる池のほとり

使い分けた苔や下草類が植わる池のほとり

池のほとりは美しい緑が繁茂する様に、苔と下草類をふんだんにレイアウトしています。

苔と言えばスギゴケを連想される事が多いのですが、スギゴケは陽当たりが良好且つ湿度が滞留しやすい環境・地域でなければ生育は難しいものです。

小さな和庭であるこの環境ですら陽が当たる場所と日陰のままの場所に分かれており、それぞれの箇所に合わせた苔の選定をしています。
住宅の庭であればコツボゴケやスナゴケが定着しやすく、よく知られるハイゴケはコケが絡まりやすい地面でないと定着が難しくあります。

苔については葉を閉ざして陽射しから身を守っている時間帯の散水は避け、以降陽が当たらない頃に軽い散水をしてあげるのが良いでしょう。
散水によって苔の葉が開いても日焼けする事無く、夕刻ならではの美しさを楽しめる事でしょう。

尚、苔の管理手間と言えば水やりを欠かせないといったイメージを持たれやすいのですが、散水だけであればさほど大きな労力ではなく、肝心なのは苔面から生える雑草の除去と言えるでしょう。
雑草がある程度育ってしまうと引き抜く際に苔が一緒に捲れてしまいやすく、適切な除草方法としては日頃から小さな雑草の芽を探してそっと引き抜く、といった形が適しています。

地面深くに潜れる事で鯉のストレスも軽減

地面深くに潜れる事で鯉のストレスも軽減

瑞々しい環境に設置された池の中では、小さな錦鯉が悠々と泳ぎ回っていました。

これまでは地面より高い位置で泳いでいた鯉ですが、今回の施工によって地面より低い位置へお引越しとなり、以前よりも遥かに落ち着ける環境となったのではないでしょうか。

周囲の下草類が成長してボリュームを増し、池の上へは木々の枝葉も被って来る様になります。
これにより強い日光からも池が守られ、隠れ場所を求めて慌てる場面も少なくなってくれるのではないでしょうか。

しかし池のすぐ傍にまで枝葉が伸びてきた際は適宜剪定が必要なのは間違いなく、鯉の好環境を守る為にも大切に管理していきたい和庭と言えるでしょう。

この施工事例の動画版はこちら

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