前回ご紹介を致しました玄関までのアプローチを石と植栽でナチュラルにデザイン-文京区K様邸に引き続き、今回はアプローチの奥へ設えた小さな和庭の施工事例紹介となります。
前回ご紹介のアプローチガーデンの奥には大谷石のテラスを設けており、ここは更に奥へと続く日陰に和庭の入り口に繋がっています。
茶道で申します所の躙り口の様に低く作られた扉が設けられており、奥の設えの気配を感じる事が出来ます。
この入口エリアは大谷石の敷石で整備の上、アカシデやトベラ、アオキ等によって和モダンな雰囲気を加えており、奥の和庭を少し予感させるような仕上がりと致しました。
少ない陽射しを少しでも確保できる様、建物側には出来るだけ空間を残した構成になっている和庭。
この小さな和庭は浴室や和室に面しており、実際は高い位置を目隠しする事が主な目的でありました。
目隠しについてはフェンスでは難しい高い位置であっても庭木の植栽であれば実現する事ができ、今回は目隠し樹木として、
・シラカシ3.5m
・ソヨゴ2.8m
これらをメインとして植栽しており、低い位置は隣家の古い塀を見えない様にする為に人工竹垣を施工しています。
最も室内から見える中央部分はコハウチワカエデを植栽しており、人工竹垣とのマッチングはここが明確に和風の庭である事を表現しています。
使用した敷砂利は伊勢砂利に近いサビ砂利であり、白地に天然サビ色が入る風情ある化粧砂利となっています。
シラカシはぐんぐんと樹高を伸ばして高所目隠しを充実させる事を前提としていますが、こちら側のコハウチワカエデとソヨゴについては細良い透け感を維持する事を想定しています。
カエデ類としては稀な大人しさを持つコハウチワカエデは陽射しの少なさに合わせて植栽直後に枝透かしを行っており、同じくソヨゴも生育が緩やかである為、隔年毎の剪定でも十分に樹姿を維持する事が出来ます。
シラカシですと成長と共に下部の枝葉が枯れていきますが、ソヨゴは多少の陰であれば枝葉が残りやすく、日向だけでなく日陰でも重宝する庭木と言えるでしょう。
また仕立てによっては非常によく和庭とマッチするもので、写真の様に人工竹垣とのマッチングも優れています。
植栽の背後、隣家塀を目隠しするグローベン社製の人工竹垣は高さ2mを有し、しっかりと庭に和の風情をもたらします。
スタンダードカラーは人工竹材がイエローになるのですが、今回は高さが2mありますので明るくなり過ぎる可能性があり、シックでモダンな「燻カラー」を採用しています。
1本ずつ異なるカラーリングが施されており、絶妙なリアルさを感じられます。
背景がシックなカラーですと植栽の緑色がはっきりと浮き上がり、より色鮮やかに見えるという効果も得られます。
日陰での庭づくりでは様々な素材を明るくしてしまいがちですが、モダンで落ち着きのあるカラーチョイスもお勧めと言えます。
建物からはウッドデッキを介して庭へ降りられる様、大谷石を特注加工したミニ沓脱石をセットしています。
高さは24cm、沓脱石よりも踏み台といったイメージの作りではありますが、和庭のらしさを加えてくれる存在感を持っています。
大谷石は風化するという弱点はありますが加工性は非常に良く、味わい深い逸品をオーダーいただく事が可能です。
この沓脱石は側面をノミによるコブ出し仕上げとし、足を乗せる天面はビシャン加工によってザラつきを持たせており、安全性も確保しています。
大谷石の最も大きなメリットはとにかく軽量という点であり、手運びしか手段が無い狭所へも簡単に持ち込む事が出来ます。
貴重な陽射しが砂利に反射されて明るくなり、最小限の枝葉が揺れる、和庭の魅力は静けさにあると言っても過言ではありません。
和風の庭を作る際、必ずしも灯篭や手水鉢といった添景物を用いる必要は無く、空間と石組みさえあれば不思議と和庭の雰囲気が出てくるものです。
極端に申しますと石組みと砂利敷きのみ、例え植栽が無いというデザインでも石庭という和庭形式が存在する様に、植物の生育が厳しい場所でも和庭の風情を取り入れる事は可能です。
暗くて狭い場所である程に和庭の可能性は無限でありますので、この様な場所を有効に美しくリフォームされたい方は是非ご相談をいただければと思います。