ミズキ科・ミズキ属であるハナミズキは、優れた花物の庭木として造園や庭づくりの材料として植栽をされてきました。
庭づくり材料としては古くから親しまれており、現在でも和庭や道路沿いなどで大きくなったハナミズキの姿を見掛る事も多いです。
こちらのページでは、庭木としてのハナミズキの魅力、特徴、おすすめな植栽方法等をご紹介してまいります。
ハナミズキの基本データ
- 科名と属名 ミズキ科・ミズキ属
- 学名 Cornus florida
- 英名 Flowering dogwood
- 分類 落葉広葉樹 小高木
- 放任樹高 約10m
- 原産地 北アメリカ
- 開花期 4月下旬~5月上旬
- 別名 アメリカヤマボウシ
1912年(明治45)に桜の木をアメリカ・ワシントン市へ送った際の返礼品として日本に渡来しました。
現在も日比谷公園に当時のハナミズキの原木が残っています。
ハナミズキの特徴と見所
ハナミズキは独特のシルエットを持つ庭木で、落葉樹でありながらもスリムで端正な樹姿を楽しめる庭木です。
昔から花を楽しむ庭木、いわゆる花木として多く扱われてきた歴史があり、私も従事したての頃より植栽をしてきた記憶があります。
ハナミズキの葉
ハナミズキの葉は丸みを帯びた楕円形であり、小さな木でもやや大きめである印象があります。
横向きに伸びる枝に対生する葉はややうつむき加減、他の庭木であれば萎れてしまった様な角度にも見えます。
常緑樹のソヨゴと同じく下向きに葉が付く庭木は大人しい印象、侘びた雰囲気を感じられ、これが和風の庭にもよく似合う理由であるかと思います。
ハナミズキの花芽
ハナミズキは夏に翌年の花芽を分化させる為、この様な小さな花芽が長い間に渡って付いている事となります。
誰にでも花の付き具合が予見できる事から、昔からお客様とハナミズキの花数についてのお話をする機会が多くございました。
今年は多く咲いた、去年は咲かなかった等、ハナミズキの花数は前年夏の気候や気温によって左右されると言われており、実際この時期に強い乾燥状態に晒されると、翌年の花付きが悪くなる傾向があります。
ハナミズキの花
ハナミズキの花びらに見える部分は葉が変形した「苞(ほう)」であり、この部分の色の違いで白・ピンク・紅などの花色が分けられています。
正確な花は苞の中央に位置していますが、とても小さくほとんど目立ちません。
ハナミズキの白花
クラウドナインという品種に代表される白花のハナミズキです。
経験上、白花のハナミズキは生育が旺盛で丈夫な傾向があり、小さな木から大きく育てたい場合にお勧めできます。
葉色も純粋な緑色をしており、徒長した枝も青色掛かって見えるのが特徴です。
ハナミズキのピンク~紅花
品種:アップルブロッサム等も該当するピンク花種のハナミズキは色鮮やかな花が魅力です。
咲き始めの色は濃く、開花に連れてピンク色へ変化し、やがて花の付け根から新葉が展開します。
上の写真の様に、ハナミズキは咲き始めから花色が変わっていくという特徴があります。
同じ品種でも開花のタイミングによって花色が異なり、同じ木の花でも上と下で花色が異なって見えるタイミングがあります。
白花ではこの面白さを見る事が出来ませんので、ピンク花や紅花種ならではの魅力とも言えます。
色付きと花数の変化
ハナミズキの花は開花後に徐々に色付いていく為、その年の気候によって「早咲き」を起こしますと、十分な色付きをしないまま花を終えてしまう事があります。
また、特にピンク・紅花のハナミズキは年によって花の数が異なる事が多く、これも前年の気候による所があると考えられています。
上でもご説明の様に、前年の夏季に強い乾燥状態を経験すると花数が減る傾向があります。
ハナミズキの実
ハナミズキは花後、写真の様に小花の付け根に実を付け始めます。
始めは小さな実でありますが、それぞれの実が段々と大きくなって目も楽しませてくれる様になります。
数多くの花を咲かせるハナミズキは実も集合して固まる様に付き、どこか可愛らしい印象を感じさせます。
色付き始めるハナミズキの実
実が集合して大きくなった後、ハナミズキの実は秋に向けて熟し、赤く色付き始めます。
実もハナミズキの見所の一つであり、紅葉と共に非常に風情を感じさせてくれるものです。
花が似ているヤマボウシとは異なり食用には出来ませんが、ツヤのある紅色はお庭を美しく彩ります。
秋口に美しく染まるハナミズキの実
秋口になり、すっかり深紅に染まったハナミズキの実です。
表面は非常に滑らかで、美しい色と光沢を持ちます。
多くの場合はの紅葉よりも先に実が赤く染まり、次いで葉の紅葉が始まっていきます。
ハナミズキはこの2段階の色付きが特徴的であり、花と並ぶ見所とも言えるでしょう。
美しいハナミズキの紅葉
花の魅力が代表的なハナミズキですが、適した環境に植えられ根も落ち着いた木の紅葉は美しく見事です。
イロハモミジの様に柔らかなディテールではありませんが、秋のハナミズキは整った形で凛とした紅葉姿を見せてくれます。
紅葉しやすく色も濃いのはやはりピンク~紅花品種であり、これらは通年やや赤味を帯びた葉色をしています。
夏の葉焼けや乾燥を避けられる場所へ植える事で、美しい花や紅葉も育てる事が出来ます。
紅葉していくハナミズキの葉を観察
ハナミズキの紅葉は、赤く染まるまでの中間色として見られがちな黄葉がほとんど見られません。
緑色から紅く染まる途中は黒ずんだ様にも見える事がありますが、やがて紅色が目立つ様に変化していきます。
ハナミズキの葉は大きい為、紅葉の時期には樹形全体が真っ赤に染まる印象です。
紅葉の時期には来年の花の蕾がかなり膨らんでおり、見た目も楽しい庭木と言えるのではないでしょうか。
ハナミズキをシンボルツリーに
一本幹でスリムな樹形を持つ落葉樹は貴重であり、ハナミズキはあらゆるお住まいでシンボルツリーとして植栽を行う事が出来ます。
シンボルツリーは建物の壁際、道路や駐車場付近、玄関周りであったりする事が多い為、ハナミズキの様にスリムな樹形の庭木はとても重宝します。
シンボルツリーにおすすめなハナミズキのサイズ
他の庭木でありますとシンボルツリーとして植栽する場合はやや背の高いサイズをお勧めしますが、ハナミズキについては植栽後の成長による樹形変化が少ない為、ある程度小振りのサイズでも問題ないかと思います。
こちらのハナミズキは樹高2.4m程で手頃なサイズですが、自然に幅も出ておりシンボルツリーにおすすめです。
ハナミズキの成長は比較的緩やかで全体が整いながら大ききくなりますので、植栽後に大きくなっても想定外の姿になってしまう事が少ないです。
ですので樹高2~2.5m程で管理したい様な場所のシンボルツリーであれば、ハナミズキはおすすめな庭木です。
ハナミズキは他の落葉樹と比べてて枝葉の広がりも狭く控えめな印象ではありますが、整えられたオーナメントの様な佇まいを楽しむ事が出来ます。
シンボルツリーは花木が良いけど場所が…と困った時にも、ハナミズキであれば迷わず選択が出来ますので、植栽場所が限られる場合のシンボルツリーとしておすすめです。
シンボルツリーはアプローチの傍や駐車場などに面している事が多く、近くを歩く様なケースがあります。
その点を踏まえましてもスリムなハナミズキはおすすめなシンボルツリーと言えるでしょう。
尚、ハナミズキに限らずシンボルツリーをお選びされている方は、シンボルツリーの選び方とおすすめ樹種についてのページもご参考いただければと思います。
ハナミズキの植栽実例
シンボルツリーとしておすすめなハナミズキですが、庭づくりの中の一本としても魅力的な庭木です。
四季それぞれの季節感をしっかり鑑賞できる点はもちろんですが、庭に点在させれば目立ちすぎない庭木として景観づくりに役立ちます。
庭の中で独立させるハナミズキ
ハナミズキ一本幹の樹形でありますので、写真の様に庭の中で独立させる植え方でも美しく映える庭木です。
ハナミズキの植栽手法としては庭の中のアイポイントへ一本を植栽して目立たせる事が多く、周囲が開けた場所へ独立させて植えれば、美しい樹形を生む横枝を自由に伸ばしてあげる事が出来ます。
また、シンプルな樹形である為に視界を遮る事が無く、庭の中に取り入れても向こう側がよく見え、庭の遠近感を演出したい場合にも用いる事があります。
ハナミズキの脇を通り抜けるアプローチ
コンパクトな樹形を維持しやすいハナミズキであれば、この様にアプローチ沿いに佇む様なレイアウトをする事も出来ます。
このシチュエーションで株立ち樹形の木を植えてしまうと見る見るうちに左右へ枝が広がってきてしまい、それを抑える様な剪定をしてしまうと樹形も簡単に崩れてしまいます。
しかしハナミズキであれば整える、コンパクトに維持する、といった剪定が行える出来る木ですので、横を歩く様な場所でも安心して植える事が可能です。
何気ないアプローチを上品に見せてくれる、ハナミズキならではの植栽方法と言えます。
ハナミズキ同士を列植する
ハナミズキの場合、何本かを列植すると非常に良い景観になります。
ハナミズキ独特とも言える横方向へ伸びる枝が柔らかな壁の様になり、花や紅葉の時期は圧巻の美しさを見る事が出来ます。
この手法は住宅に限らず社寺の様な広い庭でも見られ、他の庭木でありますとイロハモミジでも同様の植栽手法が取られる事があります。
趣向の異なる庭木と合わせる
ハナミズキはスリムで場所を選ばない点が魅力ですが、それはそのまま他種の庭木との共生・寄せ植えも行いやすいと言う事になります。
常緑樹であるソヨゴ(株立ち)の前へ同じく株立ちの落葉樹を植栽しますと、樹形はもちろんボリューム感も似てしまい、お互いの存在感が薄くなってしまいます。
しかし一本幹の端正な落葉樹であるハナミズキであれば、株立ち常緑樹とは全く異なる樹姿となり、寄せ植えとしても楽しい景観づくりを行う事が出来ます。
常緑樹だけでは寂しので花木も欲しい、といった場合はハナミズキの寄せ植えがおすすめ出来ます。
ハナミズキの育て方
適した環境
ハナミズキは花持ちや紅葉の発色を促進させる為に日向への植栽が推奨されてはおりますが、実際の住宅街の夏の日光は大変厳しく、道路や駐車場コンクリートからの照り返しが葉にダメージを与えます。
あまりに暑い直射日光を受け続けると、葉焼けを避ける為に落葉を起こす事があります。
これは稀にヤマボウシにも見られる現象です。
この為、ハナミズキの木を大事に育てる場合は日光や西日の強い場所は避け、東~東南が適していると考えます。
強い日差しの季節でも午後には陰になる場所ですと、長時間の直射日光を避けると同時に西日を回避する事も出来ます。
狭い庭への植栽に向くハナミズキ
一本幹でスリムな樹形のハナミズキは、一見して植栽が難しそうな場所へも植栽する事が出来ます。
特に紅花品種(チェロキーやサンセット)等は特に生育が緩やかな為、越境や壁の接触もしにくいのがメリットと言えます。
出来れば庭植え(地植え)に
極端な暑さと乾燥に弱いハナミズキは通常通り土中へ植える「地植え」に適しており、乾燥の激しいプランターやコンテナ植栽には不向きとなります。
植える時期と適した土質
ハナミズキは落葉樹ですので、植え付け(特に苗木)は葉が落葉した12月から3月頃に行うのが基本となります。
しかし植木として落葉期の内に根回しがされた木については、夏を避ければ通年植え付けは可能です。
ハナミズキは乾燥を嫌いますので、保水性が良く水捌けも良い土で植え付けます。
他の落葉樹と同様に、樹皮堆肥を混ぜ込んだ庭土で植えてあげれば問題ありません。
水遣りと肥料
庭植えの場合でも根付いて大きな庭木になるまでは、成長期や真夏は乾燥が続くかない様に水をあげるのが無難です。
花芽が分化する真夏に乾燥を経験すると翌年の花芽が極端に少なくなる事もありますので、夕方の水遣りは意識して行いましょう。
肥料は成長が始まる前の2月~3月に寒肥として、8月頃に追肥として与えます。
油かす等の有機質肥料を、根の周囲に掘った穴の中に入れる様にします。
ハナミズキの剪定方法
ハナミズキは落葉樹の中では特に剪定が行いやすい庭木と言えます。
剪定時期は落葉期に行うのが良く、樹形が完成された木であれば毎年ほぼ同じポイントで枝を詰める剪定を行う様になります。
この時期には花芽が容易に確認できる為、花をどの程度残すかも調整がしやすいかと思います。
ハナミズキの「徒長枝」も枝分かれ(分岐点)から発生している事がほとんどで、切り口を目立たない様にしっかりと枝元からカットすれば切り口も目立たず美しく維持できます。
先述の様に剪定時期は既に花芽が分化して葉も落ちた12~3月が適期となりますので、その年に伸びすぎた枝を探して分岐点から外してあげましょう。
施肥については植え付け時の元肥以外は、花後に置き肥・撒き肥を行う程度で十分となります。
化成肥料であれば匂いも気になりませんが、有機化成肥料や油粕等を与える場合は、肥料に薄く土を掛けておきましょう。
夏の終わりに肥料を与えてしまうと、紅葉が阻害される事があります。
花後のお礼肥に留める様にする事も大切です。
ハナミズキで注意したい病気や害虫
長雨の梅雨が明けた際は湿度によるあらゆる病気・害虫に注意が必要ですが、ハナミズキにおいては特にうどんこ病に掛かりやすい傾向があります。
薄暗い環境や風通しの良くない場所への植栽では特に注意が必要ですので、葉が白く変色した箇所を見付け次第、殺菌剤を全体に散布する事が望ましくなります。
春から夏にかけてはアメリカシロヒトリやイラガなどの毛虫に注意する必要があります。
特にイラガは触れると人への被害も大きく、ハチに刺された様な痛みと症状を伴います。
食害が確認された場合も容易に触れる事をせずに観察の上、毛虫用の殺虫剤を夕方以降に全体散布する事をおすすめします。
また、カミキリムシの幼虫であるテッポウムシの被害を受ける事があり、これは木そのものを枯らしてしまう事があるので注意が必要です。
成虫が幹に穴を開けた時に落ちる木くずで確認が出来ますので、日頃から地面を観察しておくのが良いでしょう。
ハナミズキのポイントまとめ
ここまでご紹介をしてまいりましたジューンベリーですが、庭木としておすすめ出来るポイントと注意したいポイントをまとめます。
おすすめなポイント
- 美しい花が咲き、花色も紅白・ピンクから選べる
- 特に赤花品種は美しい紅葉も見られる
- スリムな樹形で狭い場所へのシンボルツリーにも
- 比較的生育が緩やかで剪定も行いやすい
注意したいポイント
- 乾燥に非常に弱い
- 強い日差しに当たると葉焼けを起こしやすい
- うどん粉病や毛虫発生の予防が必要
如何でしたでしょうか。
ハナミズキは花木として親しまれてきた歴史も古いですが、近年の住宅事情にもぴったりな特性・メリットを持った庭木です。
陽の当たり過ぎる場所は傷んでしまいやすいですが、程良い明るさを持つ場所であれば花付きへの悪影響もなく健康に育ってくれます。
広くない場所だけども花が見たい、そんなご希望をお持ちの際は是非ハナミズキの植栽を検討されてみては如何でしょうか。
執筆者:新美雅之(新美園HP作成・作庭者)
庭木や庭デザインについて、作庭者の経験を活かして現実的に解説をするコンテンツを目指し、日々執筆しています。