今回植栽デザインのご依頼を戴きましたS様邸には、大きく分けて
- アプローチ沿い
- 和室前
- ウッドデッキのある主庭
この様に3か所のエリアがあり、それぞれの場所を引き立てる様に造園・植栽を施す事となりました。
アプローチ沿いは多彩な庭木で賑やかに、
和室前は和風の坪庭調に、
主庭は目隠しと季節感を感じられる様に、
それぞれの場所にこの様なテーマを設けて植栽計画をさせていただきました。
住まいと調和する植栽景観
S様邸は道路よりも数メートル上がった土地に建築されており、木々と建物が同時に視界に入りやすいというロケーションでした。
植栽計画としてはまず道路から見上げた際の木々の見え方を考える必要があり、これは庭木の高低差や色彩差を取り入れながら、完成形としては木々の間からしっかりと建物が見えて閉鎖感を感じさせない事にも留意しております。
右手には樹高2.5mの非常に樹形が美しく仕立てられたソヨゴを配し、左側に見える建物とのバランスを取ります。
ゆくゆく大きく育てるオリーブを左側へ添え、中央は樹高も低いヤクシマアセビをレイアウトして高低差を設けています。
更にその奥には上品なアオダモが顔を出す様にしており、道路から主な木々が全て見える様にしています。
アプローチで出迎える植栽レイアウト
階段を上がって門周りに辿り着くと、数々の植栽が出迎える眺め。
建物からやや離れた位置ですので頻繁な水やりも厳しい場所であり、このエリアは乾燥に耐えやすい樹種を選ぶという工夫をしています。
写真に写るオリーブやシャリンバイも適切な乾燥状態を好み、この場所であれば生育に必要な強い陽当たりも受けられる事になります。
壁面周りへは無理に植栽をせず、割栗石によってローメンテナンスでモダンな雰囲気を加えました。
植栽エリアの奥にはシンボルツリーのソヨゴが見え、背景を締める様な存在感を出してくれます。
幹も太めに仕上がった株立ち樹形ですが、枝には柔らかみもあり、自然に大きくなった美しい風格を見せます。
ここにも高低差を加える様に、左手には斑入りトベラの大株をレイアウトしており、樹高と色の違いを取り入れて空間を賑やかに見せています。
トベラも乾燥状態に強い樹種であり、小高くなった場所に吹き付ける強風にも耐える特性も持っています。
植栽の中央には防草処置と砂利敷きを施した空間を設けており、これは中央への風通しとメンテナンス用通路という2つの役割を兼ね備えています。
多くの庭木を植栽したデザインでも、奥まで手が届きにくい作りではメンテナンスもままなりません。
水やりや草むしりといった諸作業を行いやすくする為にも、作業用同線は確保しておくのが良いでしょう。
玄関横のイロハモミジと坪庭風デザイン
玄関まで辿り着けばイロハモミジが上品に出迎える風景。
このイロハモミジは和室の窓前に植えられていますが、ここに作られた小庭の主木でもあり、玄関前のシンボルツリーでもあり、実は多くの役割を担っています。
和室の窓の先には道路がありますので、イロハモミジの植栽は目隠しをしながら室内から風情ある枝葉を楽しめるという2つのメリットを得られています。
イロハモミジの足元には坪庭風のデザインを施し、玄関へ向かう際にも和室内からも眺める事が出来ます。
イロハモミジの足元は背後にある目隠しフェンスによって日陰が作られており、これにより強い日光に弱い低木や下草をレイアウトする事が出来ています。
陽当たりが強過ぎると和庭にマッチする下草類が限られてしまう為、瑞々しい和庭を設計する場合は日除けも計画に入れおく事も有効です。
小庭の奥には低木のヤクシマアセビも植栽しており、副木として坪庭デザインを引き締めます。
日陰を好む低木としてサルココッカとヤクシマアセビを添えておりますが、各所下草類もレイアウトされています。
サルココッカの花は目立ちませんが、通年美しい緑色を楽しめる低木として重宝します。
下草類は青ヤブランやヤブコウジといった趣あるものをレイアウトしつつ、クリスマスローズといった花物も合わせ、小さな場所で多彩な季節感を味わえる坪庭となっています。
植栽で目隠しを施し季節感も感じられる主庭
主庭には広いウッドデッキが設置されており、この前面には開放感を確保する為に植栽をせず空間を設けてあります。
空間部は防草シートに割れ肌の砂利敷きを施し、派手さの無いシックな雰囲気にしています。
手前はウッドデッキへ傾ぐトキワエゴで、柔らかで優しく揺れる葉が室内からも垣間見れます。
奥には砂利敷きエリアと明確に区切った植栽エリアを作っており、居住空間から少し離れた場所で木々の存在を感じる事が出来ます。
ウッドデッキ右手はウォールの切れ目から道路が良く見えてしまう為、樹高1.5m程の常緑ガマズミ(ビバーナムティヌス)を2本、生垣風に植栽しています。
骨組みを作ったり整形的な刈り込みを行わない自然風生垣であり、植栽後の成長によって更に目隠し樹高を上げる計画となっています。
右端はさほど目隠しが必要とならないポイントでありますので、ここには柔らかな樹形と透け感を持つトキワエゴによってナチュラル感を演出しています。
自然風生垣が続くレイアウトでも良いのですが、こちらでは優しげな1本もというご希望をいただき混植というレイアウトを行いました。
主庭左角には新緑と花、何よりも軽やかな樹形を楽しめるアオダモを主木として植栽しています。
樹高が高い庭木はアオダモのみであり、その下にはアオダモの幹に接する様に鮮やかな紫花が美しいアルペンローゼを寄せ植えしています。
アオダモは下部が特に寂しい樹形である為、多くの場合中低木を寄せ植えして景観バランスを取ります。
特に陽当たりが良好な手前には樹高1.5mのレモンを植栽し、これも季節感を感じられる庭木と言えるでしょう。
レモンは庭木サイズになると樹形が崩れたものも多くなるのですが、こちらはしっかりと芯を有する木を選んでおり、この様な樹形のレモンであれば形や方向性を崩さずに大きくなっていってくれます。
レモンは花も大きめで薄紫の色味が付いて美しく、香りも良いという魅力もあります。
今回の様にお住まいを囲む様な植栽レイアウトにおいても、必要最低限の数で無駄なく構成する事で後々の管理費用の軽減にも寄与する事になります。
数が多すぎる植栽は剪定はもちろん雑草除去や水やりも大きな負担となりますので、植栽計画は後の事もきちんと含んでおく事が大切です。