今回坪庭づくりのご依頼を戴きました場所は、玄関正面に位置する中庭テラスです。
この中庭テラスはタイルで仕上げられており、もちろん土面の様に自由に穴を掘ったり削ったりする事は出来ません。
また、面積の半分が軒下にあたり、窓側は雨の当たらない環境でした。
施工前のタイルテラス
中庭の面積は幅・奥行き共に1.8m程であり、まさしく一坪に近い空間です。
この中庭はタイルテラスであった為、穴を掘って植物を植える事も、普通に地面を削って石を据え付ける事も出来ません。
しかし室内造園の手法を使い、庭づくりの基本に忠実なデザインを施せば、人工植物やドライモスを使って風情溢れる坪庭を作り出す事が出来るのです。
坪庭づくりにあたってのコンセプト
今回の室内坪庭制作にあたり、お客様とご相談の上、以下の様な方向性をお取り決め致しました。
- 水盤や燈篭を用い、昔ながらの和庭風情を感じられる様に
- 雨が当たる部分は庭石や石材を配する
- 雨の当たらない部分は人工植物を使って自然に見せる様に
- 玄関からはもちろん、リビングからの眺めも意識したデザイン構成に
この様なコンセプトの元で制作を致しました室内坪庭をご紹介してまいります。
玄関正面に見る、風情ある坪庭風景
玄関を入ると正面で出迎えてくれる坪庭の風景です。
フェイクグリーンである事を感じさせない黒竹の向こう側に水盤が据えられた坪庭は、自然味と静けさを感じさせてくれます。
アイポイントを右手前(黒竹)と左奥(岬燈篭)、つまり対角線上にレイアウトする事で遠近感を感じられる様にしています。
小さな面積、特に坪庭の制作においては基本となるレイアウトであり、限られた場所を最も広く、充実された庭に見せる事が出来ます。
素材それぞれ「高さ」にも変化を付けており、これもまた動きや面白味を感じさせる手法となります。
安定感のある大判飛び石
坪庭における飛び石の運びについては、歩きやすさか景観か、どちらを重視するかによってレイアウトも変わってきます。
眺める為の飛び石であれば小さい物を散らす様に、石の肩も丸みを帯びたものを使う事があります。
しかし今回は実際に中庭へ下り立ち足を運ぶシチュエーションを重視し、安定感のある飛び石を選んでいます。
表面はスリ加工が施された「スリ鉄平」と呼ばれる飛び石で、表面に適度なざらつきがあって滑りにくいという特性があります。
鉄平石は日陰に据えられますと表面に薄く苔が付着しやすく、滑らかな仕上げの飛び石ですと思いの外滑りやすく危険です。
風情と安全性を兼ね備えた、優れた飛び石と言えるでしょう。
地面に埋め込まれたかの様な水盤と庭石
屋外での庭づくりであれば水盤や庭石の据え付けは地面を掘削して据え付けるものです。
しかし今回は底がタイルである為、その様な工法は行えません。
そこで水盤はまずモルタルによって安定して据え付けた後、仕上げとして周囲に割栗石を置いています。
割栗石は水盤の下部を程良く隠しながら、しっかりと安定した据え付け感を感じさせる効果を担っています。
庭石については使いたい向きや角度を予め吟味し、その際に底部が平坦である様な庭石を選んでおります。
きちんと選んだ庭石であればモルタルによって強引な角度付けを行う必要も無く、石の底が地面に埋まっている様な安定感を演出できます。
初めて訪れる方は地面がタイルである事には気付かれないかもしれません。
岬燈篭らしさを強調させる枯れ流れ
水盤の「水照らし燈篭」としての側面も持たせた岬燈篭ですが、その呼称は文字通り岬に明かりを灯すという事に由来します。
この為岬燈篭を用いるのは水を表すデザイン上である事が多く、特に流れを模した枯山水様式に多く見られます。
今回の据え付けも岬燈篭らしさをより感じさせる為に、燈篭から手前に向かって枯流れの砂利模様を付けています。
枯流れが石にぶつかり、石が水で削られた様な表情を見せるべく、庭石にもそういった表情を付けています。
この部分は僅か0.4㎡程ではありますが、小さな素材を工夫して使う事で味わい深い景色を作っています。
自然風景を再現した窓際のフェイクグリーン
フェイクグリーンである黒竹とドライモス、同じく人工植物である笹の葉をレイアウトした小山部分です。
この風景は3種のフェイクグリーンを自然に習ってレイアウトしており、竹の足下から自然に笹が生えつつある自然風景を再現しています。
窓を開放すれば写真の様に緑溢れる風景を楽しむ事ができ、人工植物とは思えない自然味が感じられます。
植物を用いない「石庭」という造園手法もございますが、やはりお住まいの坪庭であれば潤いのある景色を感じたいものです。
植物の効果はその単体の景観だけでなく、周囲の素材をより美しく見せる効果も持っています。
この坪庭は黒竹越しに水盤と燈篭を眺める事を一つのテーマにしており、植物と石材が小さな空間で融合される事に重きを置いております。
緑を介せば石材はより風情のある存在に見え、植物が生えていれば不思議と坪庭そのものに年月の経過を感じられるものです。
特に苔類においては年月の経過を感じさせるもので、今回は特に重要視した部分と言えるでしょう。
苔類は長い時間を掛けて石に付着し、周囲の苔も何気ない石へ上って成長してくるものです。
特に石の根締め、いわゆる地面との境は自然界に見られる様に人工苔を盛り上げ、石にも苔を付着させています。
ドライモスだけではこの景観を作る事は難しく、色を分けたスポンジ材を苔に見立てて使用しています。
全ての植物が人工物とは思えない風景は、全て自然に見習う事から始まると言えるでしょう。
坪庭とお住まいの一体感
坪庭の出入口を庭側から振り返った様子です。
廊下から庭への段差を極力少なくする様に、一番石(飛び石)は高めに据え付けています。
しかし中途半端に段差が小さいと返って危険な事もありますので、やはり12cm~15cm程の段差が好ましいでしょうか。
こちらから見える部分には外壁と苔の間にエッジング材を施しており、お住まいと坪庭材料は直接触れていない様にしてあります。
坪庭の底に敷いた防汚シートにも言える事ですが、万が一の際の原状復帰にも対応できる作りになっています。
キッチンやリビングからの眺めも意識したデザインに
こちらの坪庭は玄関側の窓だけではなく、リビングの縦長窓からも眺められる様になっています。
この窓からの眺めも当初よりデザインに組み込んでおり、特に黒竹の位置には細心の調整を行いました。
窓から緑が多く見えるのは気持ちの良い事ですが、坪庭の全景を考えますと植物と石材の景観比率が半々のバランスとなる事が望ましくあります。
この窓からは黒竹、石に上る苔、飛び石、水盤、岬燈篭と枯流れ、これら全てがまとまって見られる様に調整を行っています。
幾度とこちら側からの眺めを確認させていただけました事もあり、最も良い眺めを楽しめるポイントになったかと思います。
今回施工を致しました室内坪庭は半屋外という特性を逆に活かし、石庭と自然風景が融合されたのではないかと思います。
もちろん完全な室内空間でありましても同様の坪庭デザインを施す事は可能でありますので、ちょっとしたスペースを景観向上として活用されたい方は、是非お声掛けを戴ければと思います。