目黒区K様邸には建物を分けた様な空間が作られており、設計上採光と通風の為とも言える場所でした。
かつての坪庭づくりも、この様な理由で作られた空間にデザインを施す事が発祥となっており、お住まい同士の空間はまさしく坪庭に相応しい場所と言えます。
坪庭を作る場所は南向きではありますが、長細い空間なので直射日光が差す時間は限られております。
また、正面には隣家がよく見えてしまっており、こちらの目隠しも同時にご提案する事となりました。
暗く見えてしまう場所を明るい和の坪庭へとリフォームすべく、総合的にご提案をさせていただく事となりました。
完成した坪庭の様子です。最も大切に考えましたのは、やはり採光と通風を悪化させない様にデザインするという点でした。
まず背景・目隠しとして隣地境界へ人工竹垣を施工しておりますが、高さは隣家様の風情ある屋根瓦が見える様に設定しています。
いわゆる借景とも言える手法ですが、これにより和庭の風情が増す事となります。
フォーカルポイントとなる手水鉢も坪庭の奥へ設置しており、これにより園路が意味あるものとして成り立ってきます。
この手水鉢に被さる様に樹高のあるアオダモを植栽しており、坪庭に馴染むナチュラルなシンボルとなっています。
手水鉢の右手前にはアクセントとなる四ツ目垣を設え、茶庭の中門の様な奥深さを演出しました。
低木の植栽は耐陰性の常緑低木を多用しており、必要最低限にして緑濃い風景になる様心掛けました。
手水鉢に向かう飛び石は幅60cm内外の「諏訪スリ鉄平」を採用し、自然な野性味と角の取れた優しい表情を両立させます。
表面に削り加工を施されておりますので濡れた際のツヤは少ないですが、擦られた表面は滑りにくく、日陰で表面に苔が付着しても安全な飛石と言えるでしょう。
坪庭中央には敷石を横方向に据え付けておりますが、これは坪庭を「平面」の存在によって少しでも広く見せるという効果を得られます。
もちろん歩きやすいという点もメリットとして挙げられますが、造園においてはやはり景観的効果も大切にしたいものです。
下草のラインが美しい坪庭ですが、砂利エリアと下草エリアはプラスチック製の見切り材でしっかりと区切っています。
これにより下草周りの土が雨によって砂利まで流れてくる事がなく、常に美しいラインを保つ事が出来ます。
坪庭中程に設えた四ツ目垣もいわゆる人工竹垣であり、腐食の無い素材で作られています。
アルミ製の丸太には木目模様が描かれており、リアル感を表現するのが難しい四ツ目垣も坪庭にしっくりと馴染んでいます。
建物に近付ける垣根は「袖垣」とも呼ばれ、この四ツ目垣は坪庭の中にアクセントを加えると共に、垣根の奥をより遠くに見せるという遠近効果を持たせてくれます。
四ツ目垣に添えるのは常緑樹のソヨゴであり、向こう側を見え隠れさせる適度な抜け感を持っています。
この坪庭が少ない植物数でも緑豊かに見えるのは、こうした常緑低木を要所に散りばめている事に起因します。
緑を一か所に固めるのではなく、適材適所といったレイアウトが坪庭を緑豊かに整えてくれるのです。
坪庭の奥に設置された手水鉢は「鉄鉢型」と呼ばれる形で、丸みを帯びたシンプルなディテールが特徴です。
今回ご用意した鉄鉢型手水鉢は通常の物よりも高さがあり、低い位置に収めても遠くから良く鑑賞できるというメリットが生まれました。
手水鉢周りは植栽を少なめにして空間美を大切にしており、これは背後の人工竹垣による恩恵も受けています。
何も無い空間が垣根によって際立ち、手水鉢の存在感も増すという訳です。
こちらの人工竹垣は柱や胴縁材等のアルミ部材を全て竹材と同色に揃えており、部材のラインが全く目立たない仕様となっています。
この坪庭が明るく見えるのも垣根の効果であり、垣根の存在が日陰の庭を上品に彩ってくれるのがお解りいただけると思います。
手水鉢周りの植栽は、アオキやアセビ、ナリヒラヒイラギナンテンやサルココッカといった常緑低木を主とし、花物であるシモツケ等も添えています。
手水鉢の頭上に枝葉を展開するのは、シンボルツリーとなるアオダモです。
双幹と呼ばれる2本の幹で構成された樹形を持ち、上部程に広がりがっていく樹形がナチュラル感を演出します。
お住まい外壁や窓への干渉が心配される位置ですが、アオダモであれば写真の様に建物から離れていく様な自然な曲がりを加える事ができ、自然にそこで育ったかの様な雰囲気すら得られます。
現代では和庭へ雑木類を合わせる事が好まれており、和風ナチュラルといった坪庭カテゴリもよく見られる様になりました。
基本デザインは和の設えを忠実に表現し、お住まいへ自然な風景を添える雑木の風景も楽しめる、そんなお庭がこれからも増えていくのではないかと思います。
元々防犯や安全面を目的に備えられた照明が、生まれ変わった中庭を美しく照らし出します。
昼間はさほど目立たなかったアオダモが幻想的に浮かび上がり、手水鉢や飛び石の印影も美しく見えます。
明るいカラーを選んだ人工竹垣は照明の光を反射し、坪庭全体に光が優しく届いているのが解ります。
お庭をライトアップする事を考える場合、大切なのは植物の数を最低限にする事、圧迫感のある樹種を使わない事が挙げられますが、庭づくりの基本である「採光・通風の確保」を意識していれば自然に体現される事です。
この様に和庭ならではの空間美は、様々な場面でメリットをもたらしてくれます。