新宿区の教会様の玄関アプローチには小さな植栽用スペースが設けられており、作庭については当初この部分へ和の風情を感じられる空間を、というご希望をいただく事から始まりました。

坪庭デザインを施す前の植栽スペース

坪庭デザインを施す前の植栽スペース

現状拝見~ご相談の際は、奥行き40cm程の空間にどんなデザインを施せるか、その方向性や形についてお話を重ね、当日にラフ画を描きながらご説明をさせていただきました。

牧師様におかれましては古来日本と西洋文化の結びつきに関し深いご見識をお持ちであり、方向性と致しまして教会アプローチ上に和の風情がしっかりと感じられる、いわば坪庭風のデザインを施す事となりました。

石材や石類による「小庭の骨格」

石材や石類による「小庭の骨格」

デザインとしては和の坪庭に見られる「燈篭と手水鉢が一対」となる事が基本となりました。

偶然にも現地調査時に地中から使われていない水栓が発見され、今回はこの蛇口を使用して手水鉢へ水を落とす事も可能となりました。

写真の様にまずは石類を先行して据え付け、全体の骨格となるべくバランスを取ります。
和風の庭においては植栽についてはあくまでも仕上げと言える程、石類による骨格が重要となります。

植栽の為の空間は残しつつ、後々枝葉がどの様に合わさってくるか、どの辺りを和らげてくれるか、そんな仕上がりを想像しつつ石材・自然石によって坪庭デザインの基礎を作っていきます。

完成した玄関アプローチの坪庭

完成した玄関アプローチの坪庭

完成した玄関アプローチの坪庭の様子。細長い場所へのデザインは全てが「正面向き」となってしまいがちですが、今回の作庭においては道路側、つまり斜めから見ても自然で立体感を感じられる事に重きを置き、実施工において幾度と調整を行いつつ仕上がりに至りました。

奥行きのある庭の場合であれば前後という配置レイアウトによって立体感も奥行きも作り出す事は出来ますが、細長い場所でありますとあらゆる素材が単調な横並びに見えてしまう事が多いものです。

工夫となるのが各資材の高低差や10cm単位での前後差異、燈篭の向きや植栽による暈しであり、これらが一体になった時に庭の奥深さが生まれ、これは面積による制約も覆す効果を持ちます。

玄関側から眺める坪庭

玄関側から眺める坪庭

玄関側から庭を眺めれば、一層奥深い景色を楽しむ事が出来ます。
手水鉢や燈篭、筧に総じて言えますが、やはり「立ち上がり」部分を植物によって和らげる事でより風情を感じられる様になります。

燈篭と手水鉢の足下はセキショウ類で暈し、背後のナリヒラヒイラギナンテンが燈篭のディテールを和らげながら、添景物が美しく映える緑の背景として活躍します。

筧というものはしっかり存在を見せる事もありますが、この様に低木と合わせる事で狭小部でも奥深い景色に見せる事が出来ます。
こちらではヨシノツツジを植栽しており、春の花が非常に美しく引き立つ事でしょう。

筧の立ち上がり部分についてはヤブコウジや正宗セキショウの植栽で緑濃い地被とし、背後の壁に備えられたコンセント部を目隠しする効果も兼ね備えています。

植栽の緑と水音が合わさる瑞々しい空間

植栽の緑と水音が合わさる瑞々しい空間

手水鉢への落とし水が奏でる心地良い音色は、植栽の緑と相まって瑞々しい空間を演出します。

水というものは庭の中において唯一実際に動きを生ずるものであり、それは景観美だけではなく眺める時の経過にも趣を添えます。

植物と水という組み合わせは生命の理にかなった景観であり、水はより美しく、植物はより健康に見えるという不思議なものでもあります。

手水鉢は水を受ければ全体が美しく見え、そのディテールが一層際立ってくれます。
手水鉢周りの「海」と呼ばれる砂利空間には黒玉砂利を用い、この黒色が手水鉢をしっかりと浮き上がらせます。
同時に黒玉砂利は水濡れをすると美しいツヤを放つ為、手水鉢に水を落とす場合は恩恵も多いものです。

ライトアップされた夜の庭風景

ライトアップされた夜の庭風景

施工後、建築設計事務所様によりライトアップの工事が行われ、夜間の風景写真を頂戴致しました。

程良い光がうっすらと坪庭を照らし出し、植栽の影が背後の白壁に映される様が美しい風景です。
燈篭についても外部から照らして存在感を出すのではなく、本来の使用法に沿って火袋の内部に光を入れるという見事な手法となっています。

近年は庭のライトアップと言えばスポットで上方を照らし出すケースが多く見られますが、小さな坪庭等ですとこの様に全体をうっすら照らし出す方がおすすめではあります。
スポットライトは「照らし出す対象」が明確に決まっている形となりますが、やはり総合的にデザインを施された空間においては、とりわけ主役は決めず庭そのものを柔らかく照らし、それによって生まれる陰影を楽しみたいものです。

ヨシノツツジの花が坪庭を鮮やかに

ヨシノツツジの花が坪庭を鮮やかに

こちらは後日お送りをいただきましたお写真、ヨシノツツジの花が満開となった坪庭の様子です。

普段はしっとりと飾り気の無い美しさを見せる坪庭ですが、春の訪れは色鮮やかな景色となり、周囲の石材や植物も一味違った趣に見えます。

ヨシノツツジは花期以外は非常に控えめな印象の低木ですが、この季節だけは遠目からも美しい花の色合いを楽しむ事が出来ます。

こちらの事例の様に、奥行きの短い空間でも素材やレイアウトの工夫によって通常の庭と変わらない奥行きある庭デザインを施す事が出来ます。
ほんの小さな場所や、使わずに持て余してしまっている場所など、この様な場所へデザインを施すご相談は随時承りますので、ご検討中のお客様は是非メール等でお声掛けをいただければと思います。

この施工事例の動画版はこちら

この施工例に関連するおすすめコンテンツ

坪庭とは?由来やデザインのポイント、小さな庭や狭い庭の実例も
坪庭とは?その由来やメリット、設計上の注意点やデザインのコツも実例写真を交えて解説します
和風の庭の魅力とは?庭園形式やデザインの解説、構成素材もご紹介
和風の庭の魅力とは?庭園形式やデザインの解説、構成素材もご紹介
日陰の庭の魅力やデザインのコツを徹底解説-日陰におすすめな庭木や下草40種類もご紹介
日陰の庭の魅力やデザインのコツを徹底解説-日陰におすすめな庭木や下草40種類もご紹介