造園施工前、M様邸のお庭には一面芝生が張られており、既存のシラカシやシマトネリコが大きく成長している状況でした。
シマトネリコの方は樹高さえ許容出来れば枝透かしによって綺麗に見せられる感触でしたので、今回は写真のシラカシを抜根処分対象としました。
シラカシは樹高を低くキープする事が困難な樹種であり、無理な丈詰めによって崩れた樹形を戻す事も非常に難しいと言えます。
今回はこの芝生面を残しつつ、
・新規にナチュラルな植栽を追加
・低木で緑溢れるイメージに
・植栽エリアと芝生エリアをきちんとゾーニング
という3つのテーマに沿って庭のデザインを考えさせていただきました。
新たにナチュラルな植栽を加え、洋風ナチュラルなお庭へリフォームされた眺めとなります。
植栽エリアと芝生エリアを明確に分けており、これは景観とメンテナンス性の両方を向上させる効果を得られます。
どんなスタイルの庭においても、構成する主木は奇数にすると自然なデザインを組みやすいという法則があります。
今回は既存のシマトネリコを残しており、新しくアオダモとヤマボウシを加えて上部空間へ雑木のナチュラル感を添えてみました。
アオダモについてはあまり目にしない「単幹樹形」を選んでおり、ある意味株立ちよりもナチュラル感を加える事が出来たのではないかと思います。
価格が株立ち樹形よりも安価である事も大きなメリットと言えます。
低木をたくさん植栽していり様にも見えますが、実際は成長余地を残す様に適度な空間を空けています。
庭というのは正面よりも側面からふと眺める様な事も方が多い為、ある程度の空間も写真の様に埋まって見える事を意識するのが良いでしょう。
「雑木の庭」と呼ばれるガーデンカテゴリの特徴としては、やはり心地良い木陰の存在をイメージされる方も多いのではないでしょうか。
実の所一日中日光に当たり続けても傷まない低木というのも限られているもので、多くの植物は適度な影を好んだり増します。
逆に言えばあえて木陰を作る事でそこへ日陰向きの低木を植える事ができ、その結果庭の景観として様々な葉色や樹形を楽しめる様になります。
木陰であれば宿根草類を始めとした下草類のレイアウトも行える様になり、これがナチュラルガーデンの景観作りに大きく寄与してくれます。
雑木類自体も、足下は日光に晒されるよりも半日陰になっている事を好みます。
雑木類を寄せ植えする事によって林床の様な半日陰を作り出し、これが植物の成長の手助けとなる事になるのです。
逆に芝生は一日中陽の当たる、陰の無い環境が必要です。
ですので芝生には万遍なく陽が当たる様に、樹木から距離を取った辺りにゾーニングを施しています。
このお庭の景観として、植栽と芝生のエリア分けが大きな存在となっています。
ナチュラル感を演出するのは鳥海石であり、飾り気の無い石肌が雑木や下草とマッチします。
ピンコロ石は外構工事でもよく使われますが、御影石については製品の良し悪しの差が大きく、弊社ではサビ色が美しく「面」もきちんと整形されたものを使用しています。
ピンコロは御影石に限らず、黒い硬質砂岩やレンガ製の物を使う事もあり、この選択によってお庭の性格はかなり異なって見えるのが面白い所です。
この素材であれば自由なカーブを樹木に沿って描く事ができ、そうする事によって「樹木が主役」といったデザインイメージを作り出す事も出来ます。
下草類を用いれば、写真の様に区分けに寄せた植栽を施す事ができ、石を柔らかな存在に見せられます。
低木類の葉が生き生きと展開するのも、ナチュラルガーデンの魅力と言えるのではないでしょうか。
木陰を作り出せたゾーンには、サルココッカやマホニアコンフューサ、アセビやヤマアジサイ等の低木をレイアウト。
日向となるゾーンには這性コニファーやアベリアといった、洋風低木で色味を楽しめる様にしています。
この結果、多くの葉色が共存する風景になり、これが一つの「洋風ナチュラルガーデン」としての景観を作り出しています。
低木類と言いましても今後の成長によってそれぞれの樹高が変わってきます。
これを剪定によって個々の姿を整えていき、低木にも高低差が見られる自然な庭風景が出来上がっていく事でしょう。
庭のデザイン作りというのは「足下」に目を奪われがちですが、造園に携わる者としてはまず上部の空間へ目を向けるものです。
どんなに足下へデザインを施しても、やはり目線の高さやそれよりも上の空間が充実していなければ全体景観としては不十分です。
雑木類を用いれば、適切に成長させる事で樹高や幅も美しく範囲を広げる事になり、結果少ない本数で空間を緑で充実させられる事になります。
「整える」というタイプの樹木によって空間を埋めようとすれば、相応の本数が必要となってしまい、これが後々にメンテナンス面で苦労する事になります。
しかも日差しを適切に通さない樹形の木を密生させると庭全体が暗くなり、このお庭の様な低木・芝生の共存風景も実現するのは困難となります。
樹高があっても光や風を通す、ここに雑木の庭のメリットが集約されているのではないかと考えます。
今回の庭づくりでは、デザイン面はもちろん外観も同時に考える様にしており、庭を眺める事は異なり敷地外から眺めた際の景観も意識しました。
お住まいと庭木のマッチングについては、「幹の本数」よりも「枝葉の広がり」を意識した方が軽やかで美しい眺めになりやすいと考えます。
つまり庭木は必要最低限の本数として自然な枝葉の広がりを持たせ、その隙間からお住まいを垣間見るといった風景が宜しいのではないかと思います。
また、庭木の本数を多くしたいケースもありますが、この場合は逆に枝葉がかなり少ない雑木を選んで軽やかな林の様に仕立てるといった植栽レイアウトが良いでしょう。
どちらに致しましても木々の隙間からお住まいが垣間見られるという風景が望ましく、これを作り出すに雑木類は非常に有効な存在と言えるのではないでしょうか。